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「勝つチャンスはどちらにもあった」元日本代表監督・トルシエが語る“PSGがバイエルンに勝てなかった理由”。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2020/09/05 18:00
ベトナム在住のトルシエは、電話で取材に応じてくれた。
後半と試合全般に関しては、バイエルンがブロックを保ちながら同じディシプリンを90分間維持し続けたのに対し、PSGは時間の経過とともに3人のアタッカーの切れ味が衰え、プレーも次第に力強さを欠いた。バイエルンはコマンとニャブリを下げても、同じ強さ・同じアグレッシブさを維持しながら同じ戦術・同じプレーを続けることができた。パリは違う。ネイマールとムバッペが退いたら終わりだ。同じプレーを継続できない。そこに個の力に頼るPSGのシステムの限界があった。すべてをふたりに頼ったが、彼らは疲れもあり期待には応えられなかった。トップコンディションにもなかった。その結果、PSGはいつもとまったく違うチームになってしまった。
ただ、そうであるとはいえ、PSGが先制点を挙げていたら、試合にも勝っていただろう。しかし現実には先制点を奪われ、同点に追いつけなかった。プレーの密度を欠き、コレクティブな統一感も十分ではなかったからだ。60分間は拮抗した試合で、バイエルンは数字の上でもまたディシプリンやオーガニゼーションにおいても勝利に値した。
プラスアルファをもたらす選手がベンチにいるか。
――たしかに前半は拮抗しましたが、後半20分までPSGは恐らく意図的に後退してバイエルンがゲームを支配しました。その後、再び反撃に出ましたが……。
トルシエ 疲労が大きすぎた。ネイマールはボールコントロールがおぼつかなく、ムバッペとポジションを替えた後はサイドで幾度となくボールを失った。彼らはプレスに多大なエネルギーをかけた。とりわけネイマールがそうで、前半の彼はピッチのあらゆるところで必死にボールを追いかけ、相手にプレスをかけていた。だがそれは個人のイニシアチブによるプレーで、チームが必ずしもコレクティブに連動してはいなかった。そこがバイエルンとの違いで、バイエルンのプレスはチームプランとしてのプレスだった。PSGのプレスは選手の思いつきだ。タイミングが悪く全体で連動することはなかった。PSGのプレーに限界があったことがそこからもうかがえる。
またPSGにはプラスアルファをもたらすことのできる選手がベンチにいなかった。それもバイエルンとの違いで、バイエルンはコウチーニョやペリシッチ、トリソなど、選手が代わっても同じ戦略、同じチーム力を維持できた。PSGは選手交代のたびに少しずつチーム力が落ちていった。ベラッティやドラクスラー、シュポ・モティンの投入はチームを活性化させなかった。
【後編(https://number.bunshun.jp/articles/-/844909)へ続く】