水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
「ウッチーは“選択”を間違えない」
水沼貴史が称える内田篤人の凄み。
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph byItaru Chiba
posted2020/08/25 20:00
鹿島で、シャルケで、日本代表で見せたサイドバック内田篤人のプレーは、誰の記憶からも色あせることはない。
ピッチ内外で選択を間違えない。
改めてウッチーの良さを見直したとき、もっとも評価できるのは……ボールの置きどころなんです。
サイドを駆け上がるスピード、ゴールに直結するクロスの質、ハードワークを惜しまない守備はもちろんですが、常にボールをいい状態で持っているので、相手のプレッシャーを受けても冷静にプレー選択ができるんです。
ボールを持っても意味がないと思ったらシンプルに返す。前に行けると思ったらファーストタッチでグッとボールを持ち出せる。そうやって試合全体の流れを見ながら判断ができる選択の幅が広い。そして、その選択をほぼ間違えないところが、歴代の監督たちに重宝された理由でしょう。
選択を間違えない、というのは彼のここまでのキャリアにも言えます。
中学時代は無名の存在ながらも、高校は進学を視野に入れながらプロを目指せる清水東に。そこで与えられたサイドバックというポジションで瞬く間に成長し、世代別代表に入るまでになった。その成長スピードはとても速かったと聞きます。
大きな飛躍を生んだ海外移籍もそう。2010年のW杯は岡田(武史)さんに評価されながらも、球際や守備の部分を指摘され、試合に絡むことはできなかった。ただ、その課題を受け入れ、何が足りないかを考えてドイツ行きのチャンスに飛びついた。試合に出られるシャルケというチームへ行く選択があったからこそ、4年後のブラジル大会でピッチに立てたわけですからね。
そうやって自分を客観的に捉えることは、成長するため、プロで成功するためにとても大事な要素なんだということをウッチーから改めて教えてもらった気がします。
「ゴールの中にいるウッチー」
冷静沈着な一方で、魂のこもった熱いプレーもたくさん見せてくれました。中でも印象深いのが「ゴールの中にいるウッチー」です。特に欧州に行ってからより多く見ることになりました。
ブンデスリーガやチャンピオンズリーグで、ゴール枠内に体を投げ出してボールを掻き出すシーン。それゆえにクリアしきれなかった、またはオウンゴールとみなされることも多かったですが、大事なのは、なぜウッチーがそこにポジションを取れるのか。それもたまたまではなく、何度も。
それは常に最後の最後までゴールを守るという責任感が、厳しい環境で培われたのだろうと思います。シュートブロックができなかったとしても、次のゴールを守る選択肢は何か。すべてのプレーにおいてスケールアップしながらも、その1勝、1点へのこだわりがウッチーを大きく成長させたのではと見ています。