野ボール横丁BACK NUMBER
勝利に徹した帯広農業が示したもの。
9人中4人が2年生、「力がある者を」。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/08/16 18:00
帯広農業の交流試合に臨むモチベーションは、他の多くの学校とは違った。それでも、確かにそこに一貫性はあったのだ。
昨秋4割の3年生2人も声はかからず。
そんなムードの中、帯広農業は、愚直に勝利だけを求めた。監督の前田の言葉だ。
「交流試合における共通の思いは、みんなでいい大会にしよう、ということ。目的はそれぞれだと思います。勝ち負けだけではない。ただ、僕らは甲子園で勝ったことがなかったので、そこを目標にしました。
それに(昨年秋も)試合に出ていた9人だけががんばっていたわけではない。全員でがんばってきた結果なので。そこは、試合に出られなかった3年生も理解してくれていると思います」
この日、帯広農業で甲子園の土を踏めたのは11人だけだった。
昨年秋、打率4割以上を残したショートの千葉俊輔は、7月下旬、練習中に打球を受け損ね、右中指を骨折。今では「投げようと思えば投げられる」状態にまで回復した。しかしこの日もスタメン落ちし、最後まで監督から声がかかることはなかった。
千葉と同様に昨秋、4割以上打ったレフトの黒神佑馬は、3年生になってから調子を落とし、北海道の独自大会でも結果を残せずレギュラーから脱落。やはり、最後まで出番はなかった。
「代打の準備はしていたんですけど……」
控えに回った3年生たちはチームの勝利を喜びながらも、一様に悔しさを滲ませていた。
交流試合の意味の答えの1つ。
勝利か、温情か。この夏、どの監督も揺れていた。前田も揺れたに違いない。だが、こう温情を断ち切った。
「思い出づくりのために出すわけにはいかない。相手がいるので、そこは勝負にこだわらないと。力がある者を使ったというだけです」
交流試合の意味は、どこにあるのか。帯広農業がその答えの1つを示した。
文藝春秋BOOKS
あいつら、普段はパッパラパーだけど、野球だけは本気だったから。(女子マネ) 2018年夏の甲子園。エース吉田輝星を擁して準優勝、一大フィーバーを巻き起こした秋田代表・金足農業は、何から何まで「ありえない」チームだった。きかねぇ(気性が荒い)ナインの素顔を生き生きと描き出す、涙と笑いの傑作ノンフィクション。
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