野ボール横丁BACK NUMBER
甲子園に響き渡った「おりゃ!」。
東海大相模・石田隼都の左手と気迫。
posted2020/08/17 14:45
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Naoya Sanuki
静かな甲子園に雄叫びが響き渡った。
「おりゃ!」
ファウルで、1ストライク。
「オラーッ!」
見逃がしで、2ストライク。
「うおーっ!」
最後は得意のチェンジアップで空振りを奪った。
東海大相模の先発・石田隼都は、7回裏2アウト一、二塁のピンチで、大阪桐蔭のプロ注目の強打者、3番・西野力矢を3球三振に仕留めた。
石田は取材時、マウンドでの気迫が嘘のように、今にも消え入りそうな声で話す。
「抑えてやろうって気持ちで全力で腕を振ったら、声が出ちゃいました……」
アクシデントが石田を襲ったのは、同じ回の4人目の打者を迎えたときだった。1アウト一、二塁で、ワンバウンドの強烈な当たりが左側頭部の脇をすり抜けようとした。
すると、次の瞬間、信じられない光景が待っていた。石田は利き手である左手を差し出し、ボールを止めたのだ。
「気づいたら、(手で)いっちゃいました」
「ベンチは見ないようにしていました」
指の付け根あたりで見事に勢いを吸収し、打球は宙に浮いた。石田はそれをキャッチしてすぐに三塁へ投げたが、ふわりと山なりのボールになり、間に合わなかった。
なぜ、そのような送球になってしまったかは記憶にないという。
「わかんないっす。あんまり覚えてないっす。投げようとしたら、投げられなかった。リリースできなくて。しびれですかね……」
ところが、そのあと、すぐに投球練習をし、勢いのあるボールを投げ込んだ。
「ベンチは見ないようにしていました。見たら、代えられると思ったので」