野球善哉BACK NUMBER
明石商・中森俊介は完成形ではない。
狭間監督の厳しい言葉にホッとする。
posted2020/08/16 15:40
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Naoya Sanuki
プロのローテーションピッチャーのような佇まいだった。
大会前から完成度No.1とも言われた明石商のエース・中森俊介が、交流試合第5日の第1試合に登場。9回を投げ、5安打9奪三振2失点のピッチングでチームを勝利に導いた。試合終盤はピンチを招く場面もあったが、相手との得点差を活用しながらのピッチングは、いわゆる「勝てる投手」のお手本のようだった。
高校野球の取材をしていると、時に出てくる「完成度」というフレーズ。彼らがまだ、17~8歳だと考えると選手として完成する目標地点はもっと先にあるはずなのだが、プロ注目の投手が登場すると、そうした物差しで語られる。
しかし、「完成度」とは怖い言葉である。
そう思うようになったのは、多くの投手を育てた名伯楽、横浜高校の元部長・小倉清一郎氏のこんな言葉を聞いたからだ。
「投手として学ぶ要素が100あるとしたら、普通の選手は100まで到達しないんだけど、松坂大輔(西武)だけは100を教え込んだ状態で送り出した。失敗というと語弊があるけど、『もうちょっとこれは練習しないといけない』『あれも練習しないといけない』という未完成な部分を残しておいた方がよかったのかなというのはある。彼が30歳くらいから苦しんだ姿を見ると、高校時代にすべてを完璧に教えたことが失敗だったのかもしれない」
中盤まで中森はほぼ完璧だった。
この日、中森は序盤から快調に飛ばしていた。
アベレージで140キロ後半に達するストレート、スライダー、チェンジアップを厳しいコースに投げ込んでいく。「5回までは完封を狙っていた」と本人も振り返るほどの完璧な内容だった。
初回に内野安打を許していたからノーヒッターの期待はなかったが、強い打球すらほとんど打たせない中盤までのピッチングは完璧に近かった。