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あさのあつこが語る甲子園への愛憎。
書く原動力であり、アンチでもある。

posted2020/08/13 08:00

 
あさのあつこが語る甲子園への愛憎。書く原動力であり、アンチでもある。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

甲子園への愛憎なかばする感情を共有しながらも、その重力への抗いがたさも2人の共通認識だった。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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史上初めて、春夏ともに甲子園大会が中止になった2020年は、高校野球がその内側にためこんだ巨大な感情が改めて意識される年になりました。
高校生にとって野球とは何なのか。日本社会にとって甲子園とは何なのか。なぜ高校野球だけがこんなにも大きくなったのか。
『バッテリー』など多くの作品で10代の若者が野球にかける世界を描いてきたあさのあつこさんと、美談に収まらない高校野球の熱狂・過剰さをえぐり出してきた中村計さんが、高校野球に渦巻くプラスとマイナスの感情について語り合いました。

――仕事柄、「高校野球の魅力は何ですか」と問われることが多いのですが、すごく困るんです。「仕事なので……」とかわしたくなる。それもどこかで本音なのですが。あさのさんは高校野球を舞台にした作品を複数書いていらっしゃいますし、選抜大会の21世紀枠の選考委員をも務められてもいる。なので、やはり同じような質問をよく投げかけられているのをお見掛けしますが、その表現が豊富でさすが小説家だなと思わされます。

あさの「たぶん、百人に聞いたら百様の答えがあるのが高校野球なんだと思います。私にとっての高校野球の魅力は、まず第一に、絶対に手が届かない世界だということがあるんです。

 性別もそうですし、私は運動能力がまったくないので。たった3年間という制約された期間で、選ばれて甲子園に出てくる選手たちは、私にとって奇跡に近い。その奇跡を手にした人たちが何を見せてくれるのかという楽しみがあります」

――私はもともと野球をやっていたことで、割と自然な流れで高校野球のことを書くようになったところがあります。その点あさのさんは、どこで最初に高校野球との接点を持ったのでしょうか。

あさの「小学生のとき、岡山東が選抜で優勝したんですよ。平松(政次=元大洋)というエースがいて。たかだか高校生のやる試合なのに、岡山中が沸き立った。私が住んでいる田舎でも、みんながテレビを観て、すごい、すごい、って。そのときの興奮が今も肌感覚として残ってるんですよね」

――あさのさんが野球を書くとき、舞台として地方の田舎町を選ぶことが多いのはそのせいなのですね。

あさの「地盤沈下しているような地域がボコって隆起するっていうのかな。なんなんだろう、この熱量はと。

 そんなスポーツは、他にないじゃないですか。21世紀枠で選ばれるのも、そういう地域の高校が多いですからね。選ばれたことで、その地域がどれだけ沸くかというのは想像がつきますね」

【次ページ】 「どちらかというとアンチですよね」

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