野ボール横丁BACK NUMBER
あさのあつこが甲子園に思うこと。
「人間教育って、怖いですよね」
posted2020/08/13 08:05
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Sports Graphic Number
高校生にとって野球とは何なのか。日本社会にとって甲子園とは何なのか。なぜ高校野球だけがこんなにも大きくなったのか。
『バッテリー』など多くの作品で10代の若者が野球にかける世界を描いてきたあさのあつこさんと、美談に収まらない高校野球の熱狂・過剰さをえぐり出してきた中村計さんが、高校野球に渦巻くプラスとマイナスの感情について語り合いました。
――この春、新型コロナウイルスの感染状況を考慮して、選抜大会が中止になりました。そのとき、新聞で「英知を集めて開催すべきだった」「同調圧力に屈したのならば残念」というあさのさんのコメントを読み、少し心が震えました。
開催が正しいかどうかというより、「高校野球だけが特別なのか」という逆風の中で、自分の思いをはっきりとぶつけていることに作家としての芯を感じました。
あさの「私は可能な限りの感染対策をして、観客を入れなくてもいいから、やる方向で努力して欲しいと思いましたよ。大人の底力を見せて欲しかった。やれるんだよ、って。それはすっごいありましたね。
ただ、感染者が出たらどうするんだ、人の命を何だと思ってるんだと言われると黙るしかなかった」
――人命を軽視しているわけではないんですよね。そんなことは言っていない。でも、昨今の風潮として、反論のしようがない極論をぶつけて、黙らせようとしてくる。
あさの「大人たちは、黙るしかできないところで、本当に黙っちゃった。もちろん、私も含めてですが、選抜の中止は大人の力のなさを露呈してしまいましたね」
――夏の甲子園中止はどう受け止めましたか。
あさの「なんか誤魔化されているような気分になりました。甲子園はやらないけど各地の独自大会は支援するって、大人側だけで折り合いをつけている感じがして。
そのあと、選抜出場チームの交流試合が発表されましたよね。やろうと思えばできるんじゃない、って。春も夏も中止になった中での決断だったので、選手やスタッフはそれは喜んでいましたけど、時間の経過とともに、果たしてこれがベストだったのかなと。交流試合ができるのなら、いっそのことトーナメントでもよかったんじゃないかという気はします。1試合でも嬉しいと言っている姿が、なんだか切なくて」