ツバメの観察日記BACK NUMBER
独学サブマリン・山中浩史を変えた
ヤクルト高津臣吾監督「4つの指令」。
posted2020/08/09 09:00
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph by
KYODO
「立場はわかっているので、腹をくくって自分の投球をしようと思っていた」
8月2日の対中日ドラゴンズ戦。今季初登板を終えたヤクルト・山中浩史は報道陣に語った。
昨年はわずか4試合の登板。今季も二軍キャンプスタートで、開幕一軍もかなわなかった。
待望の初登板はシーズン37試合目のこと。石川雅規とスアレスが二軍に落ち、ローテーションの一角を期待した新外国人・イノーアが活躍できない中で、ようやくチャンスがめぐってきた。
来月35歳になる男が語った「立場はわかっている」という言葉の重み。
だからこそ、8回をわずか97球、無失点で切り抜けたこの日のピッチングは胸を打つものがあった。試合は0-0の引き分けに終わったものの、この日の最速は123キロ、最遅は95キロというベテランの妙味を堪能できるピッチングだった。
テレビ画面に釘づけになりながら、かつて山中に聞いた言葉を思い出す。
「ピッチングの際には《前後》《高低》《内外》《強弱》を意識しています。こういうものをうまく使って打者と駆け引きをして、自分のペースに持ち込む。それをいつも言われています」
山中は言った。「いつも言われています」と。いったい、誰に? そう、当時の一軍投手コーチで、現一軍監督の高津臣吾からの教えだった。
2014年シーズン途中に新たな野球人生の幕開け。
山中浩史は、2012(平成24)年にドラフト6位でソフトバンクに入団した。
すぐに結果が求められる27歳のオールドルーキーは、プロ初年度となる2013年には17試合に登板したものの、一勝もマークすることはできなかった。
「何としてでも結果を残したい」と意気込んで臨んだ2年目の'14年シーズン途中にヤクルトに移籍。がけっぷちに立たされた男の、新たな野球人生の幕開けだった。