オリンピックへの道BACK NUMBER
「自分を見失った」瀬戸大也は
五輪延期に希望を見いだせるか。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2020/08/10 08:00
今年1月、北京で行われたチャンピオンズスイムでも自己ベストを更新する泳ぎを見せていた。
「コロナがなければ、終わっていました」
今度こそ、世界一を。
そんな思いとともに2020年を目指してきた。
世界一を目指しながら、段階を踏んで成績を向上させての昨年の世界選手権は、強化の方向性や内容の正しさを示している。同時に、根本にある意志の強さをも、証明している。すべてはオリンピックのためだった。
でも、目指していた舞台は、1年、延びた。遠のいた。
「コロナがなければ、終わっていました。どうだったかな……」
瀬戸の言うように、本来の日程であれば、瀬戸のレースは終了していた。
「どうだったかな」と、かき消えたレースを想像し、考えもする。おそらくは集大成を華々しい成績で飾っていたはずだった。
順調だったからこそ、衝撃も大きかった。
五輪延期に対する受け止め方は、選手それぞれだ。各々に時間をかけ、思い悩みながら気持ちを切り替え、来年に向かおうとする選手もいる。
それぞれではあっても、仮に今夏に対してどこか課題を残していたり、過程に不安を抱いていれば、やることをやり切った感覚が強固でなければ、延期をより前向きに捉えやすいかもしれない。
それを思っても、瀬戸の言葉は、だからここまでの真摯な、順調な歩みを思わせる。思い描いていたようにきていたからこそ、衝撃も大きかった。
瀬戸なりに、対処を試みてもいた。
小学生の頃から指導を受けてきたコーチのもとを離れ、埼玉栄高校時代の同級生であり同じスイミングクラブ出身でもある新たなコーチと新体制を組んだのもその1つだ。