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風間八宏の革命はJを飛び越える。
女子でも高校生でもサッカーは同じ。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byShinya Kizaki
posted2020/07/25 09:00
キャリアのある選手たちにとっても、風間八宏の理論はサッカーの新しい側面を照らす光なのだ。
体の前でピタリと止めるために。
練習が始まると、意味がすぐにわかった。技術に関して一切妥協がない。ピッチに風間の声が響き渡った。
「ボールが止まってもないし、運んでもないぞ! 止めると運ぶをしっかり!」
「止める・蹴る」は風間語録の代表格だ。広報によると、アスレジーナの指導初日、「止める・蹴る」の基本練習を2時間やって選手たちの度肝を抜いたらしい。
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たとえば定番のメニューに、ペアになってパスを出し合い、自分の前に横に引かれた線上にボールを無回転でピタリと止めるというものがある。子供でもできるが、実は奥が深い。
足を後ろに引きながら威力を吸収して止めたら簡単だが、そうではなく、体の前で止めることを求められるからだ。足側面の一点を使い、地面に押さえるように止めるとそれができる。
足を引いて止めると、ステップを踏み直さないとボールを蹴れない。一方、体の前の最適な場所で止められると、そのまますぐにボールを蹴れる。フロンターレの多くの選手が身につけている技術だ。
最高の「止める」の2つの効能。
風間が定義する「止める」は厳密で、少しでもコロコロと転がったり、バウンドしたりすると「止まってない」と判定される。
なぜそこまでこだわるのか? プレースピードの向上に加え、2つ大きな理由がある。
1つ目は味方への合図だ。練習中、風間はこう解説した。
「しっかりボールが止まれば、みんなが動き出しやすくなるぞ!」
パスはタイミングが肝心だが、出し手と受け手の「いつ」を合わせるのは簡単ではない。受け手の動き出しが早いと、パスが届く前に相手が再びマークできる。逆に受け手の動き出しが遅いと、出し手が敵に囲まれる。
では、ボールを一発で適切な場所に止められたら? 出し手は次の瞬間にはパスを出せるので、受け手はそれに合わせて動き出せばいい。正確な「止める」は、味方が動く号砲になる。
2つ目のメリットは、相手を動けなくさせることだ。ミニゲーム中、風間は叫んだ。
「しっかり止められずボールが動いちゃうと、敵の(プレッシングの)矢印が出てしまうぞ。何気なくボールが横に流れるだけでも、相手にとっては矢印を出せる。正確に止めるのを意識して、相手を動けなくしよう」
もし正確な場所にボールを止められると、どこへでもボールを蹴れるので、相手は容易に飛び込めなくなる。
冒頭の「相手にボールをさらして、来い、来いと引きつけろ!」というのは、まさにこのことだ。怖がって相手から逃げるようにボールを止めると、次に蹴る方向が限定されて、余計に相手に詰められる。そうならないためにも、勇気を持って体を開いてボールを止めるべきなのだ。