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崖っぷちサンプドリア奇跡の残留。
「正常化請負人」ラニエリの手腕。 

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神尾光臣

神尾光臣Mitsuomi Kamio

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photograph byGetty Images

posted2020/07/26 11:50

崖っぷちサンプドリア奇跡の残留。「正常化請負人」ラニエリの手腕。<Number Web> photograph by Getty Images

最悪のスタートを切ったサンプドリアを立て直し、降格の危機から救ったクラウディオ・ラニエリ監督。名将の信念が選手の力を引き出した。

チームを立て直す「正常化請負人」。

 セリエB優勝、コッパ・イタリアとスーペルコッパ制覇、バレンシアではコパ・デル・レイとUEFAインタートト、UEFAスーパーカップをもたらし、そしてレスターでは奇跡のプレミア優勝。タイトルの獲得数では現役のセリエA監督と比較しても頭1つ抜けているラニエリだが、そのキャリアでは途中就任も多かった。

 問題のあったチームを立て直し、一定の成功へ導く。そうした彼を指してイタリアでは「ノルマリッツァトーレ」、訳せば「正常化請負人」という異名もあったほどだ。

 そのサッカーには良く言えばオーソドックス、悪く言えば「守備重視で面白みがない」という評価も付き纏う。

“正常”という言葉にはその揶揄も少し入っているのだが、ラニエリは迷うことなくそこを重視し、チームの守備から立て直すことを通して結果を出してきた。典型的なのは、2006-07シーズンのパルマだろう。

 20試合で勝ち点15の19位に沈んでいたチームを2月に請け負うと、中盤がフラットに並ぶ4-4-2をベースに守備組織を安定させ、最終的に12位でフィニッシュさせた。

残留争いチームの不安定さ。

 そして今回、サンプでも手法は同じだ。まずは守備を安定させるため4バックに固定し、その前でもスペースを作らないように中盤の守備組織を再整備した。

 すると徐々に結果が出始め、第13節のウディネーゼ戦に勝利して降格圏から脱出した。前半戦を終えた時点では16位だったが、ラニエリが就任してからは5回のクリーンシートを記録。セリエAでは他に存在せず、欧州5大リーグを見回してみてもこれより良かったのはレアル・マドリー(7回)とレスター(6回)だけだったというから、守備立て直しの効果はてきめんだったと言える。

 だが、サンプはそこから順位の上昇に苦しんだ。守備の立て直しの軸となっていたCBのアレックス ・フェラーリが、右膝前十字靭帯断裂の大怪我で戦列を離れたからだ。

 代役は見つからず、相棒オマル・コリーのプレーも不安定になっていく。チーム全体の守備が崩壊し、5失点、4失点を喫しての敗戦も増えた。第24節フィオレンティーナ戦では、勝ち点が近かった相手にホームで1-5と大敗。順位も再び17位に落ちた。

 ちょうどそんな時期に加入した吉田麻也は、「残留争いをしているチームにありがちな安定しないパフォーマンスだと思った」と率直な印象を語っていた。

 ラニエリにしても、この時期が最も厳しかったはずだ。「エピソードに左右される面はあったが、それでも気持ちを強く持たなければならない。順位を落としたのは、他よりも何かが足りないからだ」と記者会見で語っていた。

【次ページ】 ベストな選択と、ニューヒーロー。

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