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崖っぷちサンプドリア奇跡の残留。
「正常化請負人」ラニエリの手腕。 

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神尾光臣

神尾光臣Mitsuomi Kamio

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photograph byGetty Images

posted2020/07/26 11:50

崖っぷちサンプドリア奇跡の残留。「正常化請負人」ラニエリの手腕。<Number Web> photograph by Getty Images

最悪のスタートを切ったサンプドリアを立て直し、降格の危機から救ったクラウディオ・ラニエリ監督。名将の信念が選手の力を引き出した。

ベストな選択と、ニューヒーロー。

 吉田が初めて先発で起用された3月8日のベローナ戦は2-1で粘り勝ちした。しかしその後、セリエAは新型コロナウイルスで中断。サンプの選手も多くがウイルスに感染するなど大変な状況になった。しかし彼らは、リーグ再開後の戦いで一気に順位上昇を果たした。それは、ラニエリ監督のマネジメントの為せる業だった。

 名将は、ウイルスに感染した選手が復帰後も体力回復に時間がかかることを看破。再開当初から積極的なターンオーバー制を敷くことに決めた。中2日、3日のペースで試合が続く中、GK、CB、セントラルMFなど柱となるポジションは固定しつつ、他は1試合ごとにメンバーを変えた。

 再開後、インテル、ローマ、ボローニャを相手に敗戦が続いたが、その都度、戦術上の問題を細かく修正。エースのクアリアレッラが筋肉系の故障で戦線離脱したが、前線には若い選手を我慢しながらローテーションで起用し、ベストな選択を見極めた。

 第29節、残留を争うレッチェを相手にアウェーで勝利。流れはここから変わった。守備組織が再び安定を取り戻したことに加え、ニューヒーローも飛び出してくる。

選手の力をずっと信じている。

 前半戦はベンチを温めることが多かった左SBトンマーゾ・オーゲロは、スピードのある攻撃参加で攻撃に活力を加えた。猛烈な運動量を持ち味とするモーテン・トルスビーは、セントラルMFに固定されてチームの心臓となった。懸念のCBでは、コリーのパートナーとして吉田が貢献した。失点に絡むミスもあったが、ラインコントロール自体は安定し、コリーに落ち着きも取り戻させた。

 前線ではマノロ・ガッビアディーニやガストン・ラミレスが復調し、ボナッツォーリという新生も台頭した。インテルの下部組織出身で、2014-15シーズンにはプリマベーラの最優秀選手に選ばれた逸材である。近年やや伸び悩んでいたが、ウイルス禍で祖父が亡くなるという試練の中で期するものもあったのか、この終盤で覚醒を果たした。

 大変な状況の中、守備の立て直しをきっかけにチームをまとめ、最終的に多くの選手の潜在能力を引き出して残留を勝ち取った。ラニエリの卓越した指導力が結果に、さらには今シーズンの歩みにも出ている。

「緊張感はあった。セリエB降格となれば全員のキャリアが変わる」。クラブの公式HPを通じてコメントを出したラニエリは、そう言ってモチベーションを鼓舞し続けていたことを明かした。

「キャプテンをはじめ若手に至るまで、すべての選手たちに感謝したい。水位が口元まで上がってきているような状態だったが、私は選手の力を信じてきたし、今も信じている」。チームの低迷で自信を失っていた選手のひとり一人の力を引き出したのは、名将ラニエリのそうした信念の為せるものだった。

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