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延期になった東京五輪まで1年。
伊藤美誠と張本智和は何を思う?
text by
吉本有里(NHK)Yuri Yoshimoto
photograph byAFLO
posted2020/07/23 09:00
目標は同じだが、今を語る言葉は異なる2人。「突き進む一方かなと思う」(伊藤美誠)、「耐える時はしっかり耐えて」(張本智和)。
なぜ“練習”ではなく“訓練”なのか?
伊藤を初めて取材したのは2011年1月。伊藤が小学4年生、10歳の時だった。
その年の全日本選手権、女子シングルスの1回戦に勝てば福原愛さんが持っていた最年少勝利記録を更新するということで、静岡県磐田市の実家で取材をさせてもらった。
リビングの真ん中に置かれていたのは卓球台。家を建てた時に一番最初に入った“家具”だという。
伊藤は小学校から帰って来ると、この卓球台で母の美乃りさんとマンツーマンの“訓練”を行い、技術を磨いた。
美乃りさんは「“練習”と言うと、試合とかけ離れる。アスリートは試合を想定してすべてを仕上げないといけない」と“訓練”と呼んでいた。
さらに驚いたことがあった。大会に向けた意気込みをインタビューした時だ。
世界チャンピオンになるために育てられた伊藤。
過去の経験上、小学生はカメラを向けたとたんに緊張してしまう。「はい」や「いいえ」など短いことばでしか答えは返ってこないと考えていた。しかし、伊藤は私の予想を裏切った。
カメラを前にしても動じる様子もなく、「福原選手の記録を更新する自信はあるか」と聞いた私に、間髪入れずに「あります」と答えた。
そして、きちんと考えながら、自分のことばで意気込みを話した。
「『愛ちゃんを抜かせる』ってみんなが言っているので、美誠も愛ちゃんを抜かして、もっと上に立ちたい」
この5日後、伊藤は宣言通り、最年少勝利記録を更新した。
母の美乃りさんは自分のことばに責任を持たせるため、小さいころからインタビューは1人で答えさせ、手助けはしなかった。そこには、母の強い信念があった。
「監督やコーチが言ったことでも、『これは自分には必要ない』と思ったら実行しないとか、そこで意見があるなら、自分の意見を言える。そういうアスリートになってほしかったんです。そうでなければ絶対、世界チャンピオンにはなれませんから」