オリンピックPRESSBACK NUMBER
延期になった東京五輪まで1年。
伊藤美誠と張本智和は何を思う?
text by
吉本有里(NHK)Yuri Yoshimoto
photograph byAFLO
posted2020/07/23 09:00
目標は同じだが、今を語る言葉は異なる2人。「突き進む一方かなと思う」(伊藤美誠)、「耐える時はしっかり耐えて」(張本智和)。
わずか15歳で世界中から追われる立場に……。
去年1月の世界ランキングは現在のランキング制度で日本男子最高の3位に浮上。本格的なシニア参戦からわずか2年で世界のトップクラスへと駆け上がったまさに“シンデレラボーイ”だった。
しかし、一躍、東京オリンピックのメダル候補に躍り出た張本を世界のライバルたちは徹底的に研究。去年以降、得意のバックハンドを封じられるなど、苦戦が続いた。
そして、張本がそれ以上に苦しんだのがメンタル面だった。捨て身で向かってくる相手に押されて受け身になり、本来の強気な攻めが影を潜める。格下の選手に敗れる試合も目立つようになった。
男子日本代表の倉嶋洋介監督は、こう話す。
「ランキングが高くなれば高くなるほど、負けてはいけないというプレッシャーや負けたらどうしようと考えて守りの気持ちが出てくる。誰もが通る道だ」
張本はわずか15歳で「追われる立場」になった。心の成長が追いつかず、“心技体”のバランスを崩していたのだ。
それでも日本男子のエースとして期待を一身に集める張本は、東京オリンピックの目標を聞かれるたびに「金メダルを取れるように頑張ります」と答え続けていた。試合中も強気な声を出して自らを奮い立たせ、攻めの姿勢を見せようともがき続けていた。
張本「『なかなかうまくかみ合わないな』っていう時も」
私は自身の反省も含めて張本に聞いた。
「周りの期待と自分の気持ちのバランスを取るのが苦しかったのか」
張本は率直な気持ちを話してくれた。
「自分が一番、自分のことを知っている。正直、今はまだ金メダルは絶対に取れないということを知っている中で、(周りからは)金メダルを取れると言われるので、メンタル面は複雑だった。『なかなかうまくかみ合わないな』っていう時も多少ありました」
オリンピックが近づくに連れて日に日に高まる周囲の期待。その裏で張本は人知れず、自分の現在地とのギャップに苦しんでいた。
そんな時に現れた「プラス1年」。
突然与えられた空白の中で、張本はゆっくりと自分の心と向き合っている。