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イニエスタ不在時の神戸が問われる
“密集”攻略。ヒントは高徳の……。 

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白井邦彦

白井邦彦Kunihiko Shirai

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photograph byJ.LEAGUE

posted2020/07/08 11:45

イニエスタ不在時の神戸が問われる“密集”攻略。ヒントは高徳の……。<Number Web> photograph by J.LEAGUE

イニエスタがいればヴィッセルの攻撃が明らかに変わる。では不在時には? 過密日程のシーズンで問われる命題となる。

高徳が見せた気の利くワンタッチ。

 ACL水原戦のゴールは試合終了間際に生まれた。イニエスタが酒井高徳の動きを見て浮き球スルーパスを供給し、それを酒井がワンタッチで中央に折り返す。ボールはニアに走り込んだドウグラスをスルーし、その背後に走り込んだ古橋亨梧が飛び込んでゴールネットを揺らした。

 注目したいのは、酒井のワンタッチプレーである。

 ワンタッチプレーが崩しに有効なのは周知の通り。ディフェンスが虚を衝かれたり、対応が遅れたりするからだ。では、なぜ遅れるか。ACL水原戦のゴールシーンの映像を観ると、水原の選手たちがボールウォッチャーになっていることがわかる。ボールホルダーの酒井やニアに走ったドウグラスに気を取られ、古橋を見失っている。

 これは人間が、ボールを見る、選手を見るという2段階での視線移動を強いられるからだと思われる。いくら事前に周りの状況を把握していても、ボールを見た瞬間に自分の視界にいない選手の動きはつかめない――気配を察するという特殊な能力がない限りは。

 だから、ボールを止めないワンタッチパスにはどうしても反応が遅れる。仮にあのシーンで酒井がボールを止めてからセンタリングを上げていたら、プレーが2段階になるため水原の選手は古橋を見つけていただろう。密集エリアを崩す場面でワンタッチパスが有効なのは、そういう人間の癖とも関係している。

イニエスタが欠場したらどうなる?

 前節の広島戦(44分頃)でも同じように、イニエスタが山口蛍の鋭いターンの動きを見て咄嗟にワンタッチでスルーパスを通す場面があった。山口をマークしていたのは日本代表DFの佐々木翔。反応スピードでは国内屈指の佐々木でさえ、イニエスタの意表を突くワンタッチパスに反応が遅れてしまった。

 そして、佐々木の背後を取った山口は冷静に中を見てドウグラスにラストパスを供給している。ゴールにはならなかったが、広島の守備を完全に崩したシーンであり、密集エリアを打開するヒントになるプレーだろう。

 ただし、イニエスタだから出せたワンタッチパスだったと言えなくもない。では、イニエスタが欠場したらどうなるのか。過密日程の今季では十分にありえる話である。

 ちなみに、昨年11月のJ1リーグ第32節のセレッソ大阪戦に勝利した後、神戸は前節の広島戦で敗れるまで公式戦9試合で無敗を保っていた。

 広島戦を含む10試合でイニエスタが出場していないのは昨季第33節の鹿島アントラーズ戦と翌節ジュビロ磐田戦の2試合のみ。この2試合にはルーカス・ポドルスキが出場し、磐田戦にはダビド・ビジャも出場しているため、2人がいない今季とは少し状況が違う。とはいえ、イニエスタが不在の2試合は強さはあったが、観客を魅了するクリエイティブさに欠けた。

【次ページ】 想定される展開は2つに分かれる。

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