マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
花巻東vs.明桜で見た4人の投手。
名門校でさえブランクは大きいのか。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySports Graphic Number
posted2020/07/12 11:30
投手としての才能を感じさせる明桜・長尾光。ポテンシャルは間違いないが、スカウトはどう評価するか。
この「非支配感」はなんだ?
独壇場の3イニングかと思ったら、こちらも意外とマウンドで苦労している。スライダーやチェンジアップでサッとストライクを先行できるのに、そこからピッチングを難しくしている。
明桜高の1番の下沢優斗(遊撃手・3年・168cm63kg・右投右打)、3番・平尾蒼凱(三塁手・3年・172cm72kg・右投左打)。用心深く投げる必要のある打者もいるが、花巻東・松本遼大ほどの剛腕なら、真ん中狙ってドーン! といっても大丈夫そうな打者だって何人もいる。
なのに、相手が誰でも際どいコースを狙ってはカウントを不利にして、球数を増やして、なんとなくオロオロしたピッチングになってしまっているのが、なんとも勿体なく、じれったい。
ピッチングのテンポも、打者しか見えていないようにポンポンと投げて、走者が出ると、さらに投げ急いでいるような。と、そこまで考えてから、待てよ……と気づいた。
なんだか変。初めてマウンドに上がったような「非支配感」はなんだ?
甲子園に近い学校ですら、ブランクは大きい。
慣れてないんだ、マウンドに。そうだ、コロナで春から長く休んでいて、部活動が始まって、まだわずかな期間での実戦の場のはず。
花巻東vs.秋田・明桜。
甲子園に比較的距離が近いこんなチームですら、「グラウンドで野球をすること」が、普通の日常になっていないんだ。
きっと、これでもか! というほど上がったはずのマウンドに立つことが、今は初めてのように落ち着かず、いやというほど投げたはずのピッチングが恐る恐るしかできない。
それが、「ブランク」というものなのか。
今の実戦の様子で、選手たちをいいだ、悪いだ、評価のようなことを言うのは、選手たちに失礼というものだろう。
選手たちは今、季節はずれの冬眠から醒めて、一生懸命に今までの記憶と感覚を思い出そうとして頑張っている。
2020年・高校野球の「今」とは、きっと、そういう季節なのだ。