マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
花巻東vs.明桜で見た4人の投手。
名門校でさえブランクは大きいのか。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySports Graphic Number
posted2020/07/12 11:30
投手としての才能を感じさせる明桜・長尾光。ポテンシャルは間違いないが、スカウトはどう評価するか。
自分のフォームに確信を持っている。
「いいフォームで投げるねぇ!」
ブルペンのネット越しに、思わず声をかけてしまった。
きびしい表情が一気にはじけて、笑顔がまぶしい。
「よく言われるでしょ」
はい! と答える顔に照れがない。確信を持っている証拠だ。
勿体ないなぁ……と思ったのは、実戦のマウンドに上がってからだ。
ブルペンで捕手のミットをパン! パン! と鳴らしていた快速球にも、スライダーにも、スプリットにも、ブルペンほどの勢いがない。
それ以前に、ブルペンで痛快なほど振れていた右腕のスイングに、あの思いきりがない。
打たれまい、四球を出すまい……うまくやろうとして、肝心な強さ、スピード、若さ、勢い、もっと大切なものをブルペンに置いてきてしまったような。あの腕の振りなら、わかっていてもそうは打てない球威のはずだ。
花巻東のエース、球威は十分。
同じ理由で、花巻東高のエース・松本遼大(3年・187cm92kg・右投右打)のピッチングも満足とはいかなかった。
ブルペンでの投げっぷりを見ていたら、こりゃあ明桜打線だってそうは打てないぞ……と、見ていておっかないようなボールを捕手のミットに投げつけてから、マウンドに上がって来た。
最初から踏み込んだスタンスに両足を広げておいて、体重を後ろに乗せ、前に乗せ、また後ろに乗せてから体重移動を利用して投げる。「ロッキング」がスムースにできて、前でバーン! と投げられる。ブルペンでは、この動きが見事だった。
横ブレなしのドロップカーブに、しっかり落差を作れるフォークもあって、全力投球の真っすぐは150キロ近いんじゃないか。