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アントニオ猪木「延髄斬り」の美学。
天井裏からみたプロレス芸術の快感。 

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原悦生

原悦生Essei Hara

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photograph byEssei Hara

posted2020/07/05 20:00

アントニオ猪木「延髄斬り」の美学。天井裏からみたプロレス芸術の快感。<Number Web> photograph by Essei Hara

1984年東京体育館の天井裏にて撮影。アントニオ猪木の延髄斬りは真上から見ても美しかった。

スポーツ紙で見た、真上からの4の字固め。

 リモートコントロール・カメラではなく、実際に体育館の天井裏にのぼってリングの真上から、プロレスを、いや猪木を撮影したいと、ずっと思っていた。

 小学生の頃、1963年5月、スポーツ新聞の1面で見た白覆面のザ・デストロイヤーが力道山を足4の字固めに捕らえている真上からの写真が印象的だった。

 私はスポニチの写真記者時代に、その有名な写真の撮影者であるスポニチの宮崎仁一郎さんにどうやって撮影したのか聞いた。

「リングサイドだと4の字の4がわかりにくいだろう。実際には4は逆だけれど、真上からならよくわかると思ったんだ。200ミリのレンズをもって東京体育館の天井裏に入ったんだ。体育館の天井の照明の隙間からレンズを真下に向けた。リングの上のテレビ照明の枠が邪魔にならないのが条件かな」

 こんな話を聞いた後、私は東京体育館で興行が行われるたびにチャンスが訪れるのを待っていた。1984年11月、テレビの照明はラッキーなことにリング上にはなかった。ライトは3階席からリングに向かって当てられていた。

スカイダイバーのような姿勢で。

 東京オリンピックから20年も経っている古い体育館だから天井裏は埃っぽいと思っていたが、裸電球の照明もついていて、きれいだった。リングの真上にたどり着いたわたしは、スカイダイバーのような姿勢でリングを見下ろした。リング上につるされたリング・アナ用のマイク以外は視界を遮るものはなかった。

 新鮮な風景が眼下に広がっていた。それは想像していたよりも、もっと刺激的でワクワクするイメージだった。私は180ミリのレンズを真下のリングに向けていた。

 猪木が繰り出した延髄斬りは真上から見ても芸術的だった。
 
「コピーするならもっとうまいコピーをみせてくれよ」と最近、猪木は現役のレスラーたちに元祖らしいメッセージを送った。

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