“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
マリノス育ち山田康太が水戸で覚醒?
「変なプライドは全て消えました」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/06/29 18:00
期限付き移籍でJ2水戸に加入しているMF山田康太。緩急をつけたプレーで、再開初戦の勝利に貢献した。
黒子に徹し、相手の心理を読みながら。
確かに山田は、この試合では完全に「黒子」に徹していた。大宮戦では積極的にアタッキングエリアに顔を出し、同点となる今季初ゴールを叩き出していた。だが、群馬戦は大宮戦で見せた攻撃的なスプリントを封印。中盤で首を何度も振って周りの状況を確認しながら、間のスペースに頻繁に顔を出してボールを受け、ダイレクトパスやゆっくりとしたボールキープからの長短のパスを駆使し、チームのパス回しに緩急を加えた。
「いざ試合が始まってみると想定していた通りだったし、群馬(正田醤油スタジアム群馬)は湿度が高くて暑かったので、ボールを動かされる方は運動量が落ちていくと思っていました。再開後1試合目で、自分を含めて、ピッチに立つ全員が体力面で不安を抱えている状態での試合だと思ったからこそ、そこで優位に立つことに徹しようと途中で意思決定をして、タスクを黙々とこなしました」
前半1度目の給水タイムではCB細川淳矢にポジショニングや連携面での確認を取った。自らの意思とチームとしての戦い方をリンクさせた山田の狙い通り、ゲームは徐々に水戸のペースとなっていく。
相手を手玉に取った山田の“緩急”。
34分に右CKからFW中山仁斗のゴールで先制をすると、後半はタイミングを見て攻撃のスプリントを繰り出すようになった。
64分には、最終ラインでのゆっくりとしたポゼッションにポジションを落として加わると、左サイドのDF前嶋洋太にパスが入った瞬間、前に走り出しながら両手を上げて縦パスを要求。このタイミングではパスは来なかったが、再びポジションを取り直すと、MF木村祐志からのバックパスが最終ラインに落ちていたボランチの安東輝に渡った瞬間、クサビのボールを呼び込んだ。
「あのシーンは相手も『またゆっくりと回してくる』と思っていたシーンだったので、そこで僕が緩急のをつけて崩そうと思っていた。輝くんにボールが渡る前に周りを見たらマークが完全に外れていたので、パスを要求してすぐに縦に仕掛けようと思っていた」
正確なファーストタッチで素早く前を向いた山田に、完全に群馬の対応が遅れた。スペースに運ぶと、ファーサイドでフリーになっている中山の姿を捉えた。
「変にライナーで蹴って、中山くんの手前にいたDFに引っかかってカウンターを受けると危険だと思ったので、浮かせるボールを選択しました」
左足ですくい上げるようにアーリークロスを送り込んだ。中山の右足ボレーはミートし切れず、ゴールを捉えられなかったが、まさに“緩急”で相手を手玉に取った。