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ジョコビッチ陽性と感染予防の不備。
テニス界に突きつけられた難題とは。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2020/06/24 19:00
ジョコビッチ熱い思いがベースで始まった大会だったが、感染者が続出。テニスのツアー開催の難しさを今一度痛感する一件に。
テニスへの情熱、逸る気持ちが災い。
振り返れば、3月からツアーが停止する中、選手会の会長でもあるジョコビッチのリーダーシップ、政治力は際立っていた。下位選手たちの救済措置を提案し、ツアー再開のかたちについては選手の権利を強く主張してきた。
ワクチンができた際の接種義務に断固反対し、全米オープンが感染予防のため選手の行動に厳しい制限と義務を設けると、「やりすぎだ」と批判した。そうした流れの中で、自分の主張の正当性を証明するためにあえて対策をとらなかったとさえ思われる無防備さ。テニスを早く本来の姿に戻したいという彼の情熱と行動力が、今回ばかりは災いした。
本来なら今年はグランドスラムにオリンピックも加えた5つのタイトルを独占する<ゴールデンスラム>も狙えた33歳ジョコビッチのもどかしさ、逸る気持ちが招いた事態ではなかったか。
もしも感染者を出さず、3週間のツアーをやり遂げていたなら、それはこの8月の公式戦再開に向けた動きに拍車をかけ、関わる人々の背中を強く押したことだろう。しかし結果は真逆で、再始動の難しさと、そこからの道のりの長さを思い知らされることになった。
再開なら国境をまたぐのは不可欠。
今回のことでジョコビッチたちの向こう見ずなやり方が批判されるのは無理もないが、たとえもう少しまともな危機感をもってそろりそろりとスタートしていたとしても、ひとたびテニスが再開に向かって大胆に動き出し、テニスプレーヤーがテニスプレーヤーとしての日常を取り戻そうと努力し始めれば、次から次へと国境をまたぐ移動を止めることはできない。
アドリア・ツアーの出場者の多くは開催地域である東南ヨーロッパの選手だったが、実のところディミトロフはブルガリア出身でも住まいの中心はモナコだし、ロシアにルーツのあるズベレフも住んでいるのはドイツとモナコだ。ディミトロフは、これも批判の的だが、体調不良に陥ったあとまずモナコに戻り、それから検査を受けている。