フットボールの「機上の空論」BACK NUMBER
大卒22歳で「0円」は致命的だった。
選手が理解すべき「市場価値」とは。
text by
中野遼太郎Ryotaro Nakano
photograph byRyotaro Nakano
posted2020/06/25 11:30
大学を卒業後、欧州、アジアの各クラブに自らを売り込んだ経歴を持つ中野遼太郎(中央)。「市場価値」を理解するまでに3年もかかったと当時を振り返る。
弱小国でもプレーすれば価値がつく。
すでに24歳になっていた僕は、自分に値段をつけるほとんど唯一の方法が、「小国の1部リーグ」でプレーすることだと仮定しました。弱小国でも、トップリーグで試合に出場すれば「市場価値」がつきます。TV放映があり、国際大会への出場権があり、ある程度整備されたリーグ戦とカップ戦があります。大国の下部リーグに所属すると「トップリーグには届かない選手」という印象を持たれることがありますが、「小国のトップリーグ」に所属すると、その天井はやや曖昧になるので、もしかしたら彼はやるのでは?という期待を自らに含ませることができるかもしれない、と踏んだのです。
そして現代には、SNSがあります。
僕の契約のうち2つは、SNSのダイレクトメッセージから決まりました。僕は自身のプレー映像を動画サイトに載せて、それを「選手を探しているクラブ、個人の仲介人」の間で話題にしてもらえるようにアプローチして、「で、いくらなの?」と言われたときに「市場価値はこれくらいです」と明確に言える準備をしました(ちなみに僕の市場価値は、一番高い時期で4200万円くらいでした。それは代表選手からしたらささやかな値段ですが、0円から始めた自分にとっては無視できない数字です)。
つまり僕がしたことは、まずは自分が価値になりえる場所を選び、それを「第三者」に定義してもらい、さらに広く知ってもらう手続きをした、ということです。これは、ある程度までは自分で行うことができます。
競技者に純粋性を求める傾向がある。
より競技のレベルが高い場所、満員のスタジアム、潤沢な給料みたいなものに対する憧れは、おそらく大多数の競技者の根底にあります。一方で周囲は、競技者に童心の純粋性を求める傾向にあります。お金にうるさい選手や、「自分の見せかた」を周到に用意している選手は、どちらかというと敬遠されます。僕自身で言うと、藁のうえの3年のほうに好意を抱く人が多いことも体感してきました。
だからこそ、戦略的なマネージメントを本人以外で担ってくれる人(組織)が必要なのですが、それは上位の界隈で循環している現状があります(それは需要の観点から当然のことです)。
たとえ個人的な挑戦であっても、戦略を持つことは「夢の純粋性を解放してあげること」に繋がる、というのが今回の一応の結論です。それは無垢に挑戦するという童心の純粋性ではなく、本当に辿り着くにはどうすればいいか頭を絞る、という意志の純粋性を試すものです。
今回の文章が、一歩目を自分で切り拓いていくべき人のヒントになり、同時に決して「正解」にならないことを願いながら、筆を置きたい(パソコンを閉じたい)と思います。