フットボールの「機上の空論」BACK NUMBER
大卒22歳で「0円」は致命的だった。
選手が理解すべき「市場価値」とは。
text by
中野遼太郎Ryotaro Nakano
photograph byRyotaro Nakano
posted2020/06/25 11:30
大学を卒業後、欧州、アジアの各クラブに自らを売り込んだ経歴を持つ中野遼太郎(中央)。「市場価値」を理解するまでに3年もかかったと当時を振り返る。
自分の値段に気づくまでに3年。
数えてみました。
僕は10年間で、8カ国、21チームのテストを受け、14回テストに落ちています。そしてそのうちの11回を、最初の3年間で経験しました。この時点で、すでに藁の香りがしているのではないでしょうか。11回の不合格。いま振り返っても痺れます。並行してクレジットカードの審査まで不合格だったときには泣きました。ええ、泣きましたとも。
しかしその「最初3年」と「それ以降」は、僕のなかでは大きな違いがあります。
それが「市場価値」に関する考え方です。実はすべてのサッカー選手には値段がついているのですが(メッシから僕まで、あらゆる選手にいくらの価値があるか算出している機関があります)、僕はその「自分の値段」の重要性に気付くのに3年かかりました。藁のうえにも3年、です(座り心地は意外に良さそう)。
大卒オファーなしの価値は「0円」。
僕は大卒で海外挑戦しました。が、そもそも大卒で日本国内でプロオファーがないということは、自分がプロキャリアをまったく持たない22歳であることを意味します。市場価値は「0円」です。22歳で値段がついていない(ついたこともない)という状況は、ほぼすべての選手が10代からプロ契約している欧州や南米の買い手から見れば、かなり致命的です。
サッカーは個人競技ではないので、「独立」や「起業」をして大会に参戦することはできません。必ず誰かに買ってもらう必要があります。そして、値札のない野菜にあえてお金を支払う客がいないように、値札のない選手を買ってくれるクラブもほぼ存在しません。あるいは、あえて値札のない商品を手に取る、という博打的なマインドの組織は、それ相応の財政的な問題を抱えている場合が多いです。
つまり、なによりも最初にすべきはことは、自分に適正な値段をつけてもらうことです。倫理的な話ではなく、売り買いが発生するという点で、選手は商品といえます。しかも際限なく代替可能で、光の速さで時価が移り変わる商品です。そして商品である以上、市場に乗らなければいけません。