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エディーが期待したスペシャルな才。
竹中祥27歳、戦力外後の心境を激白。
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph byNobuhiko Otomo
posted2020/06/21 20:00
2012年6月、フレンチ・バーバリアンズ戦で80mを独走してトライを決めた竹中。
手術をして、足首の違和感は消えた。
しかし、ワールドカップを控え短縮日程で行われた'18年度のトップリーグでは出場ゼロ。カップ戦3試合の出場にとどまった。大学時代に痛めた右足首はその後も完治しなかった。しばらく調子が良いと思っても、ある日突然、足首に激痛が襲ってくる。2019年ワールドカップが終わった12月、トップリーグ開幕に向けたサントリーとの練習試合でまたも右足首に激痛が走った。調べると、関節内部に「ネズミ」と呼ばれるカケラがあった。それも予想外の大きさだった。内視鏡手術で取れるサイズではない。1カ月経っても痛みは消えない。竹中は、それまでためらっていた切開手術に踏み切った。
すると、長年患っていた、足首に何かが引っかかるような違和感が消えた。これならパフォーマンスも上がると思った竹中はリハビリに励んだ。ワールドカップ日本大会の熱気が残る中で始まったシーズン、チームは開幕から勝利なしの苦闘を続けていたが、5月には日本選手権がある。そこまでには復帰して、チームの勝利に貢献しよう――そう思っていた矢先、トップリーグのシーズンは中断された。
中断理由には他チーム選手が起こした事件に伴うコンプライアンスの問題もあげられたが、新型コロナウイルスの感染はさらに拡大を続け、グラウンドもトレーニングジムも使えなくなった。
3月23日にトップリーグの打ち切りが決まり、4月2日には日本選手権の中止も発表された。今季中に復帰するチャンスが消えたことに、竹中は落胆した。だがその落胆よりも大きな衝撃が待っていた。週の明けた4月6日、角田道生GMとの面談で、竹中は戦力外との通告を受けた。
ラグビーを続けるか、社員として残るか。
青天の霹靂だった。長年悩まされた足首のケガもようやく完治し、つい数日前までは、1カ月後の日本選手権でチームに貢献しようと考えていたところだ。だが決定は覆らない。戦力外と判断された理由を尋ねると「ケガが多かったしな」と言われた。確かに、5年間で3度の手術を受けた。リハビリで戦列を離れていた時期も多かった。
企業チーム主体のトップリーグでは、ラグビーチームは企業の福利厚生部門や広報宣伝部門として位置づけられる。社員選手も勤務時間の一部または全部を免除され、出場試合数などに応じて特別手当もある。だがその待遇を得られる部員数には自ずと制限がある。新しい選手を採用しようとすれば何人かが溢れる。どこのチームも戦力を考え、チームのバランスを考え、将来性やキャラクターも考え、切る選手を決める。トップリーグで5シーズンを過ごし、27歳になっていた竹中は、次のシーズンに向けて必要な選手のリストで、下から数えた方が早い存在になっていた。
もしかしたら、シーズン中の戦術変更や選手への評価について、首脳陣に抗議したのが響いたかもしれないと竹中は思った。自分個人の不満を言ったつもりではなかった。他のみんなも戸惑っている。そんな末端の思いを伝えたかったのだが、もしかしたらそんな姿勢が煙たがられたのかもしれない。結果もだせていない27歳に、説明や反論の機会はなかった。
GMとの面談では、ラグビーはまだやりたいと伝えた。きっぱり引退すれば、一般社員として会社に残れると言われたが、その気にはなれなかった。他チームでプレーを続けられるならそうしたい。とはいえ人脈は多くない。知人に紹介されたエージェントに、自分を採ってくれるチームはないか、探してもらえないかを依頼した。