ツバメの観察日記BACK NUMBER
ヤクルトに名匠の教えをもう一度。
野村克也、関根潤三が遺したもの。
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byL:Kyodo News R:Kazuaki Nishiyama
posted2020/06/18 11:00
かつてヤクルトを指導した関根潤三監督(左)と野村克也監督。両監督の教えが今もヤクルトを導く。
期待している今でも、育成途上。
現在のヤクルトは、早急に戦力を整備し、チームの立て直しを図らねばならない東京アラートの発令中にある。高津監督には『二軍監督の仕事』という著作がある。二軍監督時代の'18年に発売されたものだが、この本の副題には「育てるためなら負けてもいい」と書かれている。まさに、「育成重視」の二軍監督ならではの発想だ。しかし、一軍監督となった今、口が裂けても「負けてもいい」とは言えないはずだ。開幕を控えた高津監督にこの点について尋ねた。
「二軍監督時代は勝敗を度外視し、その先の成長を見据えた采配をしていましたけど、一軍監督は、まずは勝負にこだわることが大切。でも、たとえば村上が昨年一軍で実績を残して、今年も主力選手として期待していますが、それでも本当の中心選手になるまでは、僕の中では村上もまだ育成途上なんです」
二軍監督時代に日々の成長を目の当たりにしてきた村上宗隆、廣岡大志、塩見泰隆、高橋奎二、梅野雄吾ら、まだまだ伸び盛りの才能あふれる若手選手は、たとえ一軍での出場機会が増えようとも、高津監督の中では「まだ育成途上だ」という思いがあるのだという。
伸ばし、鍛え上げ、成績を残すまで。
今季の高津監督には戦力整備をしつつ、若手選手を育て、その上で勝つという、とても難しい課題が与えられている。つまり、関根さんと野村さん両方の役割が求められているのである。しかし、一人で「育成」と「勝利」をともに目指すのは困難であろう。
ならば、「育成」は主に池山二軍監督が担い、「勝利」は高津一軍監督に任せるという本来の一軍、二軍の役割に立ち返るべき時期にあるのだろう。当然、「結果」は求められる。それでも、それは今年中に求められるべきものではない。あの野村監督でさえ、優勝したのは就任から3年目であった。
開幕前から後ろ向きで言い訳がましい発想のように思えるかもしれない。しかし、物事には順序があり、プロセスがある。小川前監督が残した若手選手たちを高津、池山体制でどこまでさらに伸ばし、鍛え上げ、成績を残せるのか? 幸いにして、球界注目のゴールデンルーキー・奥川恭伸も加わった。楽しみな若手は多い。