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福岡堅樹の決断と消えない記憶。
W杯敗退直後、笑顔の「終わった」。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2020/06/18 18:00
7人制日本代表での五輪出場を断念した福岡堅樹。昨年のW杯で最も印象に残ったと語るスコットランド戦では、3つのトライに絡んだ。
「むずかしいんですよ、あのプレーは」
そして前半終了間際にも、練習の成果が飛び出す。田村優のPGが外れ、スコットランドのドロップキックをトンプソンルークが好捕すると、日本はその時点で左サイドに数的有利を確立していた(スコットランドがボールの争奪に人数をかけていたため)。
ボールが左サイドに展開されると、ラファエレ ティモシーがキックでボールを転がした。
そこに福岡がトップスピードで走り込み、右腕を伸ばしてボールをつかむと、そのままトライを奪ってしまったのだ。
電光石火。
このプレーで日本は8強進出に大きく前進したが、福岡はトップスピードでボールをつかむことをずっと意識していた。
「むずかしいんですよ、あのプレーは。野球でも、外野の選手がトップスピードでキャッチするのは難しいですよね。ラグビーでも、走る速度を落とせば余裕を持って取れます。でも、テストマッチはギリギリの攻防ですから、トップスピードで走りこむエリアにボールを蹴らないと、決定的なチャンスになりません」
そこで繰り返し、繰り返し、全速力で走り込み、転がったボールを捕球する練習に取り組んだ。
「ひとりじゃ出来ない練習です。ティモシーと何度も合わせましたし、それがあの一瞬につながったんです」
明確なゲームプランがあり、細部の精度を高めるために膨大な時間が投下されたことが分かる。
スコットランドを襲った福岡のスピード。
そして後半になっても福岡のスーパープレーは続いた。後半2分にはリーチ マイケルを筆頭に防御線全体で圧力をかけ、福岡が守勢になったスコットランドの13番、クリス・ハリスに襲い掛かる。ここから大会屈指のプレーが出た。
ハリスが抱えたボールを福岡がかき出すと、ボールが宙に浮いた。すると、福岡は楕円球がピッチに落下する前につかみ、そのまま「フェラーリ」と呼ばれた俊足を生かし、トライを奪ったのである。
福岡は、この一連のプレーも練習の賜物だったと話した。