スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
福岡堅樹の決断と消えない記憶。
W杯敗退直後、笑顔の「終わった」。
posted2020/06/18 18:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
福岡堅樹が、東京オリンピックへのチャレンジを封印し、医学の道へ進むことを改めて明らかにした。
引き続き来季のトップリーグの試合には出場する予定だが、新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、選手たちの人生を変えてしまうのだ――と痛感した。
福岡については、昨年のワールドカップ(W杯)での印象がいまだに鮮烈だ。
スコットランド戦でのスーパー・パフォーマンス。
そして日本が準々決勝で南アフリカに敗れてなお、爽やかな笑みを浮かべていた。旧知のカメラマンは、福岡の様子に驚いた。
「同部屋の徳永(祥尭)に、『終わった』って笑顔で話してたんですよ」
まさにその翌日、対面で話を聞いたのである。場所は、文藝春秋本館ビルである。福岡にW杯で印象に残る試合について聞くと、「スコットランド戦」という答えが返ってきた。
「練習してきたことが、本当にそのままトライにつながったんです。驚くほどに」
左手で放ったオフロードパス。
この日、日本は4つのトライを奪っているが、福岡はそのうち3つに絡んでいる。
先制点を許した日本が反撃の狼煙を上げたひとつ目のトライは、福岡がオフロードパスを松島幸太朗に通したことで生まれたものだった。
左手から出されたパスはとても正確で、しかも柔らかかった。私はてっきり「福岡は左利きだったのか」と思ったほどだった。ところが、福岡は右利きなのである。
「ジェイミー・ジャパンではオフロードパスがずっと強調されていたわけですが、僕の場合は左ウイングなので、どうしても左手でオフロードを出す機会の方が多くなります。右手並みの精度を求めなきゃダメと思って、2018年のシーズンから左手からのオフロードに重点的に取り組むようになったんです。その成果が、幸太朗へのパスで出たんです」