Jをめぐる冒険BACK NUMBER
日本人指導者の欧州挑戦に朗報?
ベルギーで画期的な監督人事とは。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph bySTVV
posted2020/06/14 11:40
シント・トロイデンの監督に就任したマスカット氏(右)。立石CEOは日本人指導者への波及も願っている。
「UEFAプロライセンス」という壁。
なぜ、マスカットを監督に据えなかったのか?
ヨーロッパのプロクラブで指揮を執るために必要な「UEFA(欧州サッカー連盟)プロライセンス」を、マスカットは持っていなかったからだ。
オーストラリア人のマスカットが持つライセンスは「FFA(オーストラリアサッカー連盟)プロライセンス」。「AFC(アジアサッカー連盟)プロライセンス」と互換性があり、アジアであればどの国でも監督ができるが、「UEFAプロライセンス」とは互換性がないため、ヨーロッパのクラブでの指揮が執れない。
「UEFAはこれまで、大陸をまたいだライセンスを許可してくれなかった。ヨーロッパのライセンスはアジアで通用するけれど、アジアのライセンスはヨーロッパでは通用しない。一方通行なんです。だから、オシムさんやミシャ(ペトロヴィッチ)、ピクシー(ストイコビッチ)は日本で監督ができたけど、日本のS級ライセンス保持者はヨーロッパのクラブで指揮が執れなかった」
AFCとJFAが重ねた地道な努力。
現在、日本サッカー協会で欧州駐在強化部員を務める藤田俊哉氏も、この壁に阻まれたひとりだ。
'13年7月に「JFA(日本サッカー協会)S級ライセンス」を取得したあと、オランダのVVVフェンロのコーチに就任。オランダコーチ協会に登録して研修に参加し、VVVフェンロで行なわれたライセンス講習のサポートもしたが、ついに「UEFAプロライセンス」への書き換えには至らなかった。立石CEOが続ける。
「その理由として、UEFAのライセンス講習の内容が優れている、カリキュラムが異なるといったことがありますが、根本には指導者ライセンス制度の整備の問題がある。AFCのライセンスが全部オーケーとなると、日本、オーストラリアだけでなく、東南アジアとかの小国のライセンスでもいいのかっていう問題が起こります。
これまでAFCもJFAも、互換性を持てるように地道な努力を重ねてきました。そうしたら昨年10月、UEFAのコーチサミットにおいて、異なる大陸のライセンスであっても、一定の水準にあるサッカーリーグで5年以上監督をした経験があり、なおかつ、そこで結果を残した監督は認めていいんじゃないか、とUEFAが各国サッカー協会に提案したんです」