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本田圭佑、SNSとメディアを語る。
「アスリートの言葉に良い意味で洗脳を」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHONDA ESTILO Co., Ltd.
posted2020/06/08 08:00
叶えたい夢とほど遠い環境の人へ。
――4月29日からトップアスリートの「声」を直接ユーザーに届ける新しいサービスを始められました。本田選手がこれによって伝えたいことは何ですか。
「人生のきっかけです。ぼく自身、人生を振り返った時にキーになってる言霊がたくさんあって、それは父親、大叔父、祖父母、高校やプロになってからの監督にもらったものであったりするんですが、基本的には家族からのものが多いです。夢を叶えるための家族環境に恵まれてきた自負があるんです。ただ、世の中には自分の叶えたい夢とほど遠い環境にいる人がたくさんいて、そういう人たちに、ぼくがもらったようなきっかけになる言葉をあげたいんです」
――幼少時、お父さんからいつも「一番以外はベベ(ビリ)と一緒や」という言葉を聞かされて育ったというのは有名な逸話です。また当時は到底かなわなかった自分より3つ上のお兄さんにサッカーで1対1の勝負を挑み続けたというエピソードも。
「ぼくが小学生のときには両親はもう離婚していたんです。兄貴とぼくは父方の祖父母に育てられて、父親も仕事が忙しくてほとんど家にいなかった。祖父母も超スパルタで、いわゆる普通の家庭とは言えない環境だったんです。何が言いたいかというと、兄貴とサッカーをやっているときだけは余計なことを考えなくてよかった。自分の夢を追ってる時が最も楽しかったんです。兄貴とは冷静に考えれば9対1くらいの実力差はあったと思いますけど、ぼくの目線は違うんです。すきあらば下克上というのを毎日狙っていたんで、兄貴は手加減できなかったと思いますよ(笑)。友達は兄貴とサッカー。甘えられるところはない。そういう環境の中でたまに帰ってくる親父の言葉が刺さるわけです。大叔父はオリンピックに出ていて、そういう人と身近に接することもできた。夢を叶えるための家族環境に恵まれたというのは、そういう意味です。全てがものすごいバランスでそろっていました。これで親父が毎日、家にいてもダメだったんです。たまにしか帰ってこないからよかった」
アスリートの言葉に洗脳されて欲しい。
――他者から見れば「恵まれていた」とは思えない環境かもしれませんが、その中でこそお父さんの言葉を信じ貫くことができて、それが夢を叶える原動力になったと。
「父親はいい意味で『洗脳』という言葉を使っていました。やっぱり人間って誰かを信じないと生きていけないと思うんです。信じてるからこそ前を向けると思うんです。それは自分自身が納得して信じることができれば誰でもいい。まわりから理解されない宗教でも、信じていれば生きるエネルギーなわけです。そういうものを多くの人に持ってほしいんです。NowVoiceにいるのはそれぞれの分野で努力して成功をつかんだアスリートたちですから。彼ら彼女らの言葉を聞きまくって、大人も子供もいい意味で洗脳されて欲しいんです」