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本田圭佑、SNSとメディアを語る。
「アスリートの言葉に良い意味で洗脳を」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHONDA ESTILO Co., Ltd.
posted2020/06/08 08:00
ひと世代前のスターはSNSを使わなかった。
――かつては本田選手のように伝えたいことのある選手は稀でしたが、今回、これだけ(5月28日現在22名)のアスリートが本田さんの呼びかけに賛同したのは、それだけ選手の自己発信がスタンダードになってきたということでしょうか。
「まさにその通りだと思います。例えば、ぼくらよりひと世代前のスター選手はSNSを使っている方は少なかった。三浦知良さん、イチローさん、松井秀喜さん。でもこれからはそういった選手たちが稼いできたビジネスモデルから大きく変わっていくでしょう。もしかしたらクラブや球団からもらっていた年俸がかつてのようにはもらえなくなるかもしれない。そういう時代、選手たちはどうやってパフォーマンスに応じた報酬を稼いでいくかといえば自分で発信してスポンサーを獲得していくしかないんです。そのモデルもすでにできています。好きとか嫌いの前に生きていくためにはそうするしかないということですから、選手が自己発信するのはごく自然だとぼくは思います。そうやってファンと向き合っていかないといけない時代なんだと、アスリートも本能でわかってきているんです。
政治の世界でも首相がインスタライブとかをやればいいのにと思います。国会の形式ばったディスカッションは必要なのかと。ズームでライブして国民も見られる新しい国会をやればいいのにと感じます」
既存メディアに残る価値。
――本田選手はこれまでファンに直接、自分の声を伝えることにこだわり、様々な方法にトライしてきました。自身の会員制メールマガジンなどもお持ちです。そうした活動は既存メディアへの不満からですか。
「不満があるのは事実です。だからこうして新しいサービスを立ち上げたという面もあるんですけど、一方で既存のメディアにしかできない役割はあると思います。それは二次情報を伝えることです。元々は政治や社会等、国民が見えないところの一次情報を伝えることにメディアの役割があったと思うのですが、今は当事者が一次情報を発信できてしまう時代です。だから既存メディアの役割は二次情報に流れていくのは間違いないでしょう。個人で発信する情報は当事者にとって都合の良いことが多いので、権力を監視したり、それを正すのは既存メディアの大切な役割だと思います。スポーツ界でも自分発信のナルシスト集団が増えていくということで逆に、第三者であるメディアに取材されて特集を組まれることの価値はより上がると思います。だから、こういう場で取材されることも、ぼくにとってはメリットだと考えています」