濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
何より“魅力的なレスラー”だった。
木村花の記憶は笑顔とともに。
posted2020/05/26 20:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Masashi Hara
悲しみとともに怒りがこみ上げる。なぜこんなことになったのか、こんなことがあっていいはずがない。そんな言葉が何度も何度も口をつく。
5月23日、人気レスラーの木村花が世を去った。所属団体スターダムが公式に発表している。本人のインスタグラムに「愛してる。楽しく長生きしてね。ごめんね」という投稿があり、たくさんのファンが心配していた。まさにその時に飛び込んできたニュースだった。
詳細についてはまだ公表されていないが、彼女は恋愛リアリティ番組『テラスハウス』に出演中で、カメラの前での振る舞いが一部の視聴者から批判されていた。いや批判というよりSNSを使っての誹謗中傷、罵詈雑言だ。どうということはない日常のつぶやきにさえ「いなくなればいい」といった言葉が投げつけられた。
そのことを苦にして彼女は自殺したのだと見られており、すぐにインターネットにはびこる言葉の暴力について、またリアリティショーの問題点についての議論が始まった。木村花という若者の死が、現代の世の中における最悪の部分に一石を投じたのだ。
だけど彼女は世界をよくするための“石”ではなかった。多くの仲間、ファン、友人から愛された女性であり、将来有望なプロレスラーだった。筆者がこのコラムで書きたいのは、そしてプロレスを知らない人にも伝えたいのは“SNS社会の犠牲者”よりも“向こう10年以上、業界を背負って立つはずだった魅力的なプロレスラー”としての木村花だ。
なぜ、この記事を書くのか。
頻繁に彼女の試合を取材してきたわけではないから、編集部からの執筆依頼には戸惑いもあった。といってこのコラムを書かなければ、世の中から“レスラー・木村花”についての記事が1つ減ってしまうことになる。
だから書くことにする。