オリンピックPRESSBACK NUMBER
クライミングのルートを作る人。
東京五輪“代表”岡野寛が語る奥深さ。
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph byHiroshi Okano
posted2020/05/30 11:00
ルートセッティングの第一人者として活躍する岡野氏。東京五輪では「リード」の課題づくりを担うことが決まっている。
「総合力がなければ勝てない時代」
岡野は2008年から国際ルートセッターとしてW杯など国内外で活躍しているが、この10数年間のボルダリング、リードの課題の変化は顕著だと言う。
「昔は壁に何がついているか分からないほど小さなホールドでしたが、今は頻繁にハリボテ(壁から出っ張っている大振りなホールド)が見られるようになりました。それに伴い、新しい動きを要求されるような課題が設定できるようになりました。近年では、一度にいろいろな動きを要求されるコーディネーション系のムーブがトレンドでそういった要素も課題の中に取り入れています」
課題に立ち向かう選手たちも、“変化”には敏感だ。
「明らかに選手のレベルも格段に上がりました。昔は壁の平面に沿って登るような動きがメインだったのですが、今は壁の外に出ていくような動きや、立体的な動きが求められるようになっていると思います。昔はどれだけ(ホールドを)持てるかという動きがかなり重要視されていましたが、今は肩の強さや体幹、体全体の強さ、運動能力や瞬発性も高いレベルで求められます。たとえば、走って壁の上を駆け抜けるような動きが必要になってくる課題も作るのですが、以前はそういう動きはありませんでした。今の選手には様々な能力が求められていて、総合力がなければ勝てない時代になってきています」
日本人が牽引するボルダリング。
そんな中、ボルダリングW杯では昨年、男子の楢崎が年間1位で、2016年に続いて2度目のチャンピオンとなった。また、女子では野口の年間2位を始め、男女ともに決勝6人中2~3人が日本人という状況が続いた。現在、ボルダリングにおいては日本が世界を牽引しているといっても大袈裟ではない。
2002年のボルダリング杯イタリア大会で3位入賞を果たすなど、自らもクライマーとして活躍した岡野は、日本勢の躍進する理由を独自の視点で分析してくれた。
「複合的な要素はありますが、その1つに日本人の国民性も関係していると思います。例えば、ホールドを持つこと1つにしても、ほんのわずか持ち方の角度を変えてみるなど、細かな動きまで突き詰めていく。海外ではエクササイズ的要素が強く、体を動かしたいという感覚の人が多いのですが、日本の場合はトップ選手ではなくても“うまくなりたい”と練習を重ねる方が多いんですよ。そこは日本人のメンタリティなのかなと思いますね。実はルートセッターも同じで、やはり日本人は細かいところまで突き詰めていく。自然と、より精度を要求されるような動きを好むのかもしれません」