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クライミングのルートを作る人。
東京五輪“代表”岡野寛が語る奥深さ。
posted2020/05/30 11:00
text by
石井宏美Hiromi Ishii
photograph by
Hiroshi Okano
色鮮やかなホールド(突起物)を頼りに、選手たちは道具を持たず体一つで壁に設けられた課題を登る。壁の特徴や大会のレベルに応じて、そのホールドを配置するのはルートセッターと呼ばれる職人たちだ。
高さ約3~5mの壁に複数の課題が組まれ、いかに少ないトライ数で多くの課題を登り切れるかを競うボルダリングは1課題につき4分の制限時間が設定されている。一方のリードは、高さ12m以上の壁に設けられたルートを6分以内にどの地点まで登れるかを競う種目だ。
ボルダリングでもリードでも、彼らが作る課題はクライミングの面白さや奥深さを引き出す。選手たちはホールドの配置からルートセッターの意図を読み解きルートを導き出す。壁面を挟んで両者の頭脳戦が繰り広げられるというわけだ。
ルートセッター歴は20年以上。
ボルダリングとリードに加え、同じ条件で設置された高さ15mの壁を2人の選手が同時に登って速さを競うスピードの3種目の合計で競う東京オリンピックはすでに男子で楢崎智亜、女子で野口啓代が代表に内定している。
実は日本からすでにもう1人の“代表”が内定しているのをご存知だろうか。今年1月、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)から同五輪での審判員やルートセッターを務める役員が発表され、岡野寛が選出されたのだ。
東京オリンピックのリード競技のセッターとして名を連ねる岡野は、日本では数少ない国際資格を保有するセッターの1人で、ルートセッター歴20年以上の第一人者だ。
岡野の仕事は主にIFSCや日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)などが主催する公式大会などでの課題作りだ。安全上の規則やガイドラインはあるものの、「この壁にこのホールドを付けなさいといったような細かい指示はありません」と、ルートセッターに任される部分は大きい。