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クライミングのルートを作る人。
東京五輪“代表”岡野寛が語る奥深さ。 

text by

石井宏美

石井宏美Hiromi Ishii

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photograph byHiroshi Okano

posted2020/05/30 11:00

クライミングのルートを作る人。東京五輪“代表”岡野寛が語る奥深さ。<Number Web> photograph by Hiroshi Okano

ルートセッティングの第一人者として活躍する岡野氏。東京五輪では「リード」の課題づくりを担うことが決まっている。

正解がないルートづくり。

 W杯のような大会では4~6名のルートセッターでチームを組んで課題を作る。メンバーの国籍はバラバラだ。そのうち1名がチーフ(責任者)を務め、課題のバランスなどを考える。たとえばボルダリングの場合、決勝は4課題で争われるが、どういった内容、難易度で設計するのかあらかじめプランを作成。そのプランに則して課題を作り、ルートセッターらが実際に登ってテストして調整、全体的なイメージを掴む。

 W杯などの国際舞台を始め、コンペ(大会)でルートセットする際は常に葛藤と向き合っているという。これが正解というものがないからだ。

「選手の動きなどを見て、本当に強い選手だけが登れる、勝てる課題を作ろうと思っていますが、実際にそういう課題を出してうまくいくかどうか半信半疑なところもあります。また、スポーツクライミングの注目度が高くなり、最近では、見ている人たちにもわかりやすく楽しんでもらえるような課題を作るにはどうすればいいかということもよく考えるようになりました」

簡単過ぎても、難し過ぎてもいけない。

 以前、「セッターの思惑通りに登らないと(完登するのは)難しいものなのか」と記者に質問された楢崎は、「その思惑を見つけるのも難しいんですよ」と話していた。 

 だからこそ、ルーとセッターは誰かが登ってくれることで、新たな可能性が見つけることもある。

「ルートセットをしていて面白いのは、自分が考えたセットやどういうふうに登るかということを他の人と共有できるとことです。それはコンペでもそうですし、普段ジムにいるときも同じ。そういう思いが選手に伝わって、まさにその通りの動きをして、いいパフォーマンスで登ってくれたらそれはすごくうれしいものですね」(岡野)

 とはいえ、セッターの思いが伝わらないときも往々にしてある。例えば、誰一人として登れなかったり、ルートセッターが考えた動きが出なかったり、逆に、選手がもっと簡単な方法を見つけて登ったり、出場者全員が完登したという場合だ。

 登れそうで登れない、登れなそうで登れる、そのギリギリのラインを狙ってルートセットする。そう心掛けてはいるが、極端な結果が出た場合に「セッターの思いが通じなかった」とため息をつくことも。その反省は次のコンペにつなげる。

「フィードバックはしますね。ただ、まったく同じ課題を別のコンペで再現することはできないので、ルートセッターが各々、成功や失敗のフィードバックを違うシチュエーションや環境のときに引っ張りだして、どういうことが起きるかということを想像しながら作業していくしかないんです」

【次ページ】 「総合力がなければ勝てない時代」

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