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木村沙織の別格の存在感とワクワク。
仲間が「勝負の1本」を託した理由。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2020/05/23 11:30
2017年に現役引退した木村沙織。銅メダルを獲得したロンドン五輪では、別格の存在感を見せつけた。
ロンドン五輪、準々決勝中国戦。
木村のプレーや戦績を語る上で、欠かせないのは2012年のロンドン五輪。特に木村自身も「現役生活で最も印象深い試合」として挙げた準々決勝中国戦は、すべてのセットが2点差という激闘だった。
第5セットまでもつれ、ジュースの末、最後の最後にリリーフサーバーで投入された中道瞳のサーブポイントで日本が勝利した、死闘、激闘、総力戦。どんな風に言い表しても足りないその試合で、セッターの竹下佳江が「大事なところで決めてくれたのは、間違いなく沙織とエバ(江畑幸子)だった」と振り返ったように、チーム最多の33得点を叩き出した両エースが勝利の立役者だった。だが、木村の見解は違う。
「むしろ私は助けてもらって、盛りたててもらったんです。相手に勝ちたい、メダルがほしいというのはもちろんだけれど、テン(竹下)さんやリョウ(佐野優子)さん、つないでくれたみんなから“この球はあなたが決めて”と言われているような状況をつくってもらっていたので、その期待に応えたい、という思いがすごくありました」
緊迫した場面での引き出しの多さ。
ブロックの横を抜いてストレートへ強打を決めたかと思えば、ブロックの上にドライブをかけながら人のいない場所へいとも簡単そうに落とす。相手は少しでも攻撃に入るのを遅らせようとサーブやスパイクで木村を狙うが、たとえレシーブが崩れたとしても、通常ならば返すのがやっとという後方からの二段トスを豪快に打ち抜いてくる。
緊迫した場面、相手を圧倒するようなゲーム。状況は違っても、コートにいて、プレーを見るだけで、この人は何をするのか、と次々に出てくる引き出しの多さに驚いた。
そのうえ、この1点は何が何でも取らねばならないという勝負強さは他に類を見ない。ここぞ、という勝負所の1点をセッターの竹下はもちろん、竹下がレシーブをした後にリベロの佐野が迷わず木村にトスを上げるたび、チームのみならず、会場全体が木村に託し、固唾をのむ。そんな瞬間を、いつもワクワクしながら見てきた。