バレーボールPRESSBACK NUMBER
木村沙織の別格の存在感とワクワク。
仲間が「勝負の1本」を託した理由。
posted2020/05/23 11:30
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Kaoru Watanabe/JMPA
春高バレー、Vリーグ、日本代表。カテゴリーは変わっても、背が高くて攻守のバランスに長けた女子選手が出てくると、翌日は決まって同じ見出しが躍る。
「木村沙織の後継者」、もしくは「木村沙織二世」。
別のシチュエーションもある。2019年ワールドカップで4位と躍進を遂げ、特に最終日のカナダ戦では連続サービスエースという破格のインパクトを残し、一躍スターダムへと躍り出た男子バレー日本代表・西田有志を擁するジェイテクトSTINGSの試合は連日、立ち見も出るほどの盛況ぶり。好成績と若きエースの誕生で一気に沸いた男子と比べると、同じVリーグでも女子の会場はいささか寂しい。そんなスタンドを見上げ、冗談交じりに関係者からこんなことを言われた。
「木村沙織さんみたいな選手、いませんかね」
「沙織みたいな選手はいない」
2017年の現役引退から3年が過ぎた今もなお、未だ衰えぬ存在感。
誰か1人を取り上げるのは、団体スポーツであるバレーボールでは何か違う、と思いつつ、やはり彼女は別格。そう証言するのは東京五輪に向けて2月に始動した女子バレー日本代表で主将を務め、現役時代の木村と最も長く、共にプレーしてきた荒木絵里香だ。
「沙織みたいな選手はいないですよね。華があるとか、そういうことじゃない。敵になれば憎たらしいぐらいうまいし、味方であればどんな時でも決めてくれる。天才だけど、努力の人で、沙織は沙織。ただ1人です」
巧さに長けた選手や、パワーで勝る選手。バレーボール選手のスキルや戦績で見れば、彼女以上の選手はいた。かつての名選手と呼ばれた面々を思い浮かべればそう言う人はきっと少なくないはずだ。
同様に、科学や医学、情報などさまざまな進化に伴い、今この時代やこれから、彼女をしのぐようなもっとすごい選手が出てくるかもしれない。
それでもなぜ、木村沙織なのか。
理由は単純だ。何より、彼女がいる試合を見るのは楽しかった。