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ブンデス再開、無観客の実況をして。
倉敷保雄が語るJリーグ中継の難しさ。
text by
いとうやまねYamane Ito
photograph byGetty Images,Ito Yamane(in the article)
posted2020/05/23 11:50
5月16日、再開されたブンデスリーガで、無観客のなか行われたドルトムント対シャルケ。伝統の「レヴィア・ダービー」らしい熱気はなかった。
実況ブースのドアは開けっぱなし。
――スタジオの換気はあまりいい印象がないのですが……。
「通常、実況ブースは密閉しますからね。でも今回はドアを開けっぱなし。余談ですが、東日本大震災の時も地震でドアがロックされるのが怖かったので開けていました。
マスクはフルタイム、スタッフ全員がしていました。我々演者は中継直前にマスクを外しましたが、用意周到な水沼さんは顎のあたりにずらしているだけで、一瞬でマスクができるように用意されていました(笑)。
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中継においてのコロナ対策としてもっとも重要なのはキャスト、スタッフとのソーシャル・ディスタンシングだと思います。そして消毒と換気の問題。そこさえクリアすれば中継はできます。ただ中継に必要ないくつかの空間を作り出すのは容易ではありません。それができるスタジオも数はかなり限られます」
唸るような情熱はかけらもなかった。
――中継された試合のスタジアムはなんとも殺風景でした。
「残念ですがもはやダービーとは違うものですね。プライドを賭けた伝統の一戦であることに異論はありませんが、そこに満ちているはずの唸るような情熱はかけらもなかった。勝っても負けても毎回いろんなことが話題になって楽しめるのがダービーです。
ファンの方々も再開できた喜びといつもと違ったダービーの形に悲喜こもごもなのではないでしょうか。
監督にとっても選手にとっても臨み方が難しいダービーだったと思います。多くの無観客試合は何か事件があって行われるのが普通です。クラブが問題を起こしたとか、ファンが暴れたとか。監督はそういう部分をドレッシングルームや試合前のミーティングでモチベーションに変えていく工夫をする。
でも、今回は前例のない事態です。情熱のベクトルをどこへ向けるのか? それがあと何試合も残っている。コンセントレーションを高めるのが難しいので怪我人も増えるんじゃないかと心配です」
――ダービーでVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)チェックはなかったですね。
「ダービーとは思えないほどコンタクトプレーが少なかったこともあるでしょうね。ただ、今季の残りはもうVARは必要ないんじゃないか? という雰囲気すら感じられました。
ただでさえ無観客でエモーショナルな部分が失われているのに、『さらにここでVARやるの? もういい加減にしてよ』っていう話になりますものね。
多分コロナによってパラダイムシフトが起こってくるでしょう」