セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
モウリーニョの毒とリアリズムと、
ロマンチックなインテル3冠の結末。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/05/22 15:00
ビッグイアーを掲げるサネッティ。モウリーニョ率いるインテルにとって史上最高の時が訪れた瞬間だった。
モウの言葉はすべて毒になった。
当時47歳。指導者として脂が乗っていたモウリーニョは日々のテンションを上げすぎて、発する言葉すべてが毒になった。論争の火になおもガソリンを注ぎ、あらゆるライバルやメディアの敵愾心を煽りながら、チームの内では求心力を高め、小宇宙を作り上げた。
3冠最初のタイトルだったコッパ・イタリアの決勝戦前、ローマの敵将クラウディオ・ラニエリが士気向上のため選手たちに映画『グラディエーター』を見せたことを知ると「そんな子供騙し、うちの選手たちなら笑い飛ばしただろう」と嘲笑った。
ローマとは、セリエAでも最終節までスクデットを争った。コッパ決勝で勝利した後の挑発もえぐい。
「浮いたタイトルボーナスをローマが(インテルのリーグ最終節の相手である)シエナに払ってやれば、彼らはさぞ発奮するだろうなあ」
だが、実際のところモウリーニョは常にギリギリの精神状態で戦っていた。彼の吐く毒と週末のリアリズムの中に、青黒色のロマンがあった。
2009-10シーズンのインテルとは、そういうチームだった。
「安心しろ。2-0で我々が勝つ」
「どうだい大将、俺ら勝てそうかい?」
マテラッツィは、指揮官の携帯宛にショートメールを打った。
シーズン大詰め、リーグ戦の合間を縫ってCL決勝の相手バイエルンを極秘偵察に行ったモウリーニョから、たったいま試合を見終えたところだと連絡があったからだ。指揮官はヘルタ・ベルリンのスタジアムから、こう返信してきた。
「安心しろ。2-0で我々が勝つ」
決勝は予言通り、波乱なくインテルの完勝だった。
ただ、大願成就を果たした男たちには、歓喜のエネルギーが残っていなかった。ただ、燃え尽きた彼らの目から涙が流れ始めた。
会長とインテリスタたちの宿願をついに叶えた達成感がそうさせたのかもしれないし、チーム中が心酔していた指揮官との別れの予感もあった(※モウリーニョはこの直後、R・マドリーに招聘された)。
最高のチームの最後の試合だったことが、彼らの涙腺を崩壊させたのだろう。