セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
モウリーニョの毒とリアリズムと、
ロマンチックなインテル3冠の結末。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/05/22 15:00
ビッグイアーを掲げるサネッティ。モウリーニョ率いるインテルにとって史上最高の時が訪れた瞬間だった。
逆境のカンプノウでの仰天指示。
ミラノでの第1戦を3-1で制したインテルだったが、敵地カンプ・ノウでの第2戦では予期せぬ大ピンチに見舞われた。前半28分にMFチアゴ・モッタが2枚目の警告を受け、10人の劣勢となってしまったのだ。
バルサの巣での試合時間はたっぷり1時間以上も残っていた。2点取られれば、そこで夢は終わりだった。
全身にタトゥーを入れる強面DFマルコ・マテラッツィは、なぜかモウリーニョととくにウマが合ったことで知られている。
3冠達成から10年が経ち、当時はなかったインスタグラムで、バルサ戦で危機に瀕したチームに指揮官が出した仰天指示を述懐した。
「前半早々にチアゴ・モッタが退場になったとき、モウリーニョが言ったんだ。『我々はいつも4対7や5対7の練習をしている! それに比べれば10人対11人なんてどうってことないだろ!』って。あのバルサ相手にだぜ?」
意趣返しに燃えるエトーの守備。
FWリオネル・メッシが、FWズラタン・イブラヒモビッチがインテルのゴールへ迫った。12本のシュートを浴びせ、9回のCKで攻め立てた。
自陣に引いた“モウリーニョの漢たち”は覚悟を決めていた。
どれだけ面白くないサッカーと批判されてもいい。どんなに汚いと罵られても構わない。84分、DFピケにゴールを許したが2失点さえしなければいい。古巣バルサへの意趣返しに燃えるFWサミュエル・エトーが、最終ラインまで下がってボールを蹴り出した。
逆転でのファイナル進出を願う世界中のバルセロナファンを敵に回しつつ、インテルはマドリードへの切符を死に物狂いでつかんだ。
決勝の相手がどこであろうと、もはや彼らに怖れるものはなかった。