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中田英寿が叫んだ「よっしゃああ!」。
“あのユベントス戦”の本当の価値。
posted2020/05/06 09:00
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
AFLO
時間が経つほどに価値を高めていく記憶がある。熟成されたワインのように、味わいを増していく試合やゴールがある。
たとえば、現地時間の2001年5月6日に行われたローマ対ユベントス戦は、そんな記憶のひとつだろう。
2000-01シーズンのセリエAは第29節を迎え、勝点63で首位を走るローマが勝点57で2位のユベントスと激突した。このゲームを含めて、残り6試合である。ローマが勝てば優勝へ大きく近づき、ユベントスが勝てば覇権の行方は混沌とする。
試合はすぐに動く。ローマはいきなり追い詰められる。4分にアレッサンドロ・デルピエロ、6分にジネディーヌ・ジダンにゴールネットを揺らされ、アウェイチームは2点のビハインドを背負ってしまうのだ。
トッティを下げ、中田英寿を投入。
0-2のまま時間が過ぎていく。指揮官ファビオ・カペッロは60分、2枚目の交代カードを切る。チームのシンボルであるフランチェスコ・トッティを下げ、中田英寿を投入した。
クラブの生え抜きで主将の腕章を巻くトッティは、紛れもなくアンタッチャブルな存在だった。ここまで消化してきたリーグ戦で彼が途中交代したのは、リードを奪っているか同点で推移している局面に限られていた。
2点を追いかける展開で、それも首位決戦で背番号10をベンチに下げるのは、カペッロにとって大きなリスクを背負うものと言っていい。選手交代が奏功しなければ、「なぜトッティを下げた」という批判が全身に突き刺さる。
もっとも、この試合の直前にあるルールが撤廃されなかったら、カペッロはトッティを最後まで起用したかもしれない。