プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“ジャズとオーケストラ”の監督論。
長嶋茂雄と森祇晶、最強か常勝か。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/04/24 20:00
西武9年間でリーグ優勝8回、日本一6回という常勝軍団を築いた森監督(右)だったが、長嶋巨人との唯一の日本シリーズでは敗北を喫した。
思いつきではなく、シナリオがあった。
“短期決戦の鬼”と呼ばれた西武・森監督。その強さの秘密は「シリーズ7戦を3つ負けられるところから逆算して戦えること」だと言われている。追い込まれても決して無理はせずに7戦をトータルで考えられる強さだ。
その視点で見るとここで桑田を投入した長嶋采配は、第3戦に勝つこと、とにかく4つ勝つことに必死になっている采配とうつったのである。
後に長嶋監督にこの継投を決断した理由を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「この日本シリーズは桑田を立ち直らせない限り、勝利はないと思っていましたから。それと桑田の精神面ですね。彼はああいうしびれる場面になればなるほど力を発揮するタイプ。必ずいいピッチングをすると思っていましたし、そのいいイメージで第5戦のマウンドに立たせるのも狙いだった」
思いつきではない。
思いつきのようだが、しっかりとしたシナリオがあっての起用だったのである。
「私の野球はジャズみたいなものなんです」
思惑通りに2勝2敗で迎えた第5戦では桑田が完投勝利を挙げて、シリーズに王手をかける。そして「ビッグゲームになる」と予言した第6戦で3対1と西武を下してシリーズを制した。
巨人が巨人を取り戻した瞬間だった。
「私の野球はジャズみたいなものなんです」
王手をかけた第5戦後の移動日に優勝手記の取材で長嶋監督と2人で話をする機会があった。そこで西武と巨人の野球の違い、森監督と長嶋監督の野球の違いを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「指揮者のタクト1本で、整然と各パートが譜面通りに音楽を奏でるオーケストラが西武の野球だとすれば、私の野球は演奏のノリの中で様々なアドリブが飛び交うジャズみたいなものですね」