プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“ジャズとオーケストラ”の監督論。
長嶋茂雄と森祇晶、最強か常勝か。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/04/24 20:00
西武9年間でリーグ優勝8回、日本一6回という常勝軍団を築いた森監督(右)だったが、長嶋巨人との唯一の日本シリーズでは敗北を喫した。
結果だけでなく内容でも“盟主交代”。
ところが日本シリーズでは投手陣が秋山幸二、清原和博、オレステス・デストラーデを軸にした西武打線に圧倒された。
しかも西武はただ打つだけではない。森祇晶監督のもと、緻密なチームプレーやソツのない守備、走塁と完璧な野球を見せて、投手陣も巨人打線に付け入るスキを与えない圧勝だった。
試合後に巨人の主力選手の1人だった岡崎郁が「野球観が変わった」と語り、結果だけではなく野球の内容でも盟主交代を強く印象付けることとなったのである。
そこから巨人が抱える西武へのトラウマを、なんとか払拭しなければ、巨人が巨人ではなくなる――それが就任直後からの長嶋監督の思いだったわけである。
そしてチャンスが巡ってきたのが1994年の日本シリーズだった。
「このシリーズは4勝2敗で我々が勝つ!」
この年の巨人はシーズン最終戦の「10・8決戦」で中日を破り4年ぶりのリーグ制覇を達成。その勢いを駆ってシリーズに乗りこんだ。
「いいか、私には分かるんだ。このシリーズは4勝2敗で我々が勝つ! もう決まっているんだ!」
初戦前日のミーティングで、選手を見回して語った長嶋監督の訓示だった。
「10・8決戦」の試合に出発する前のホテルで「我々が勝つ! 勝つ! 勝つ!」と連呼した伝説のミーティングを彷彿させる話だが、これは全て長嶋監督の頭の中では計算ずくの発言なのである。
第1期の監督を退いた後の浪人時代に、野球だけではなく欧米、特にアメリカの先端スポーツを勉強し、見聞を広めてきた。その中で監督就任と同時に導入したのがスポーツ心理学だった。