プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“ジャズとオーケストラ”の監督論。
長嶋茂雄と森祇晶、最強か常勝か。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2020/04/24 20:00
西武9年間でリーグ優勝8回、日本一6回という常勝軍団を築いた森監督(右)だったが、長嶋巨人との唯一の日本シリーズでは敗北を喫した。
川上、広岡、野村タイプと星野、仰木、権藤タイプ。
就任以来、長嶋監督は事あるごとに「私はブックベースボールはしません」と語っていた。教科書通りの野球ではなく、セオリーとは作り出すものという信念がある。
ただその一手は、決して出鱈目でも単なる思いつきでもない。教科書に載っているセオリーを押さえた上でのアドリブなのだ。だからアドリブは音楽をノリよく、奥深く、そして感動的なものにするのである。
監督には2つのタイプがある。
1つは緻密なデータ分析に基づいた戦術眼で選手を駒として起用しチームの力を引き出して勝つ監督。古くは巨人V9の川上哲治監督やその系譜の西武・広岡達朗監督と森両監督。そしてヤクルトの野村克也監督や中日の落合博満監督らもこのタイプに入るだろう。
そしてもう1つは選手の力量を引き出して、それを束ねて勝利に結び付けていくタイプの監督で、長嶋監督はまさにここに入る。他には中日、阪神、楽天で優勝した星野仙一監督や近鉄、オリックスで優勝した仰木彬監督、横浜に38年振りの優勝をもたらした権藤博監督もこのタイプの監督だった。
もちろんお互いにお互いの特徴を兼ね備えている部分はある。ただ、安定して勝ち続ける、常勝チームを築くのは前者で、ある特殊な場面で想像以上の力を引き出して最強チームを作るのが後者と言えるかもしれない。
森監督だからこそ、西武の黄金時代を築きえた。
そして「10・8決戦」という究極の試合を勝ち抜き、その黄金期の西武を撃破できるチームを作れたのは、やはり長嶋茂雄だったのである。