プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“ジャズとオーケストラ”の監督論。
長嶋茂雄と森祇晶、最強か常勝か。
posted2020/04/24 20:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
KYODO
「このままいったら巨人が巨人ではなくなってしまう」――狭い車内に一際、力を込めた声が響いた。
1992年の10月のことだった。
この数日前の10月12日に巨人は長嶋茂雄監督の復帰を発表。当時読売新聞系列のスポーツ紙で巨人担当キャップだった筆者は、翌日から監督の行く先々をマークして一緒に行動する生活が続いていた。
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そして監督復帰会見から数日後のことだ。かねてから依頼していた新監督の単独取材の許可がおりた。ただ復帰後の長嶋新監督は猛烈に忙しく、取材は移動の車中でということになったのである。
チーム再建のメインテーマは「打倒西武」。
車に同乗して様々な話を聞いた。
復帰を決断した経緯、12年間の“浪人生活”の過ごし方、外から見た巨人というチームの分析、選手個々への評価……そして巨人の使命という話になったときに飛び出したのが、冒頭の言葉だったのである。
「いまの巨人はね、西武と聞いただけで選手の顔色が変わってしまう。西武を倒さない限り、巨人が巨人らしさを取り戻すことはできないんですよ」
就任直後から長嶋監督が抱いていたチーム再建のメインテーマは、紛れもなく「打倒西武」にあったのである。
背景には'90年の日本シリーズがあった。
前年の'89年に近鉄を破って日本一奪回を果たした巨人は、'90年も斎藤雅樹、槙原寛己、桑田真澄の3本柱を軸にシーズン70完投を記録するなど、圧倒的な投手力を背景にリーグ連覇を達成した。