球界にはなかった最先端のスポーツ科学を導入。

　選手にポジティブシンキングを植え付けることでパフォーマンスの向上を図る。緊張ではなく適度なリラックス状態を作り上げるために、積極的に専門家のカウンセリングも導入した。

　それまでの球界にはなかった最先端のスポーツ科学を導入していたのである。

　その1つが選手の劣等感を払拭するためのポジティブ発言だった。

　カンピューターと揶揄されることの多い采配、選手起用も実はきちっとした意図が秘められていた。

　第1戦も敢えて制球力のいい桑田真澄を先発させ、3回までに4失点しても交代の素振りも見せずに6回まで続投させた。

「あれは事前に上がったスコアラーからのデータを再チェックするためで、だからコントロールのいい桑田で初戦をいった」

　後にこう証言したのは当時の堀内恒夫投手コーチだ。

「これで巨人のシリーズ勝利はなくなったな」

　交流戦もなく、画像分析もなかった時代の日本シリーズでは、初戦を捨てる覚悟でこのデータ収集ができるかだが、それもしっかりとやった。

　そして第2戦は槙原が完封の快投を見せて1対0で勝つと、長嶋は再び選手にこう語りかけた。

「必ずこの東京ドームに戻ってくる。第6戦がビッグゲームになる」

　そして長嶋が長嶋らしさを見せたのは、舞台を西武球場に移した第3戦の継投だった。

　この試合は1対1の同点で迎えた延長10回に1死満塁から川相昌弘の犠飛で勝ち越すと、その裏に第5戦で先発予定だった桑田をリリーフ登板させた。

　桑田の名前が告げられると、ネット裏の評論家からは「これで巨人のシリーズ勝利はなくなったな」という声が聞こえてきた。

【次ページ】　思いつきではなく、シナリオがあった。