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頑固な名将がセリエA最優秀監督に。
ガスペリーニは師匠直系の攻撃主義。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/04/18 11:30
クロトーネ、ジェノア、そしてアタランタ。ガスペリーニが率いたクラブはどれも魅力にあふれている。
負ければ解任必至の一戦での大博打。
古巣ジェノアでの再起と解任を経て、アタランタ会長アントニオ・ペルカッシからの誘いに乗ったのは、クラブが抱える多くの有望な若手を見て、今度こそ自分の理想とするサッカーができると感じたからだ。
5歳年上のペルカッシは'70年代に活躍したクラブOBで、リーグ唯一のプロ選手経験のある会長だ。そんじょそこらの会長とは思い入れの度合いが違う。監督の立場への理解も深い。
アタランタが完全にガスペリーニのものになった分水嶺は、2016年10月2日のナポリ戦だ。
開幕から戦術が浸透せず解任危機にあったガスペリーニは、負ければ解任やむなしという絶体絶命の状況で、DFカルダーラやDFコンティ(現ミラン)、MFガリアルディーニ(現インテル)にFWペターニャ(現スパル)という無名の若手4人を先発に並べる大博打を打った。
本拠地ベルガモのファンの誰もが「自殺行為だ」と嘆いたゲームは戦前の予想を覆し、ペターニャの決勝点でよもやの快勝を収めた。
新指揮官ガスペリーニは経営陣の信頼を勝ち取り、新天地での足場を固めた。ここからシーズンをまたいで、今季のCL8強に繋がる快進撃が始まったのだ。
『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は「ガスペリーニなら、ライオンの檻の中に選手たちを閉じ込めて『鞭だけで手なずけてみせろ』という練習をやりかねない。ビッグクラブを倒すのに必要なのは、猛獣を屈服させるほどの気迫と勇気だからだ」と記したことがある。
3バックの1人が躊躇なく上がる異端。
3バックの1人に躊躇なく前へ上がれ、と命令するガスペリーニのサッカーは、イタリアの異端だ。
最終ラインに残る2人のCBが相手2トップとの1対1を迫られる代わりに、中盤より前でボールを持ったときの数的絶対優位を重視する。敵陣のサイドスペースを押さえて、ボールは決して後ろに下げない。
退路を断った攻めは相手を畏怖させる。リスクは大きい。
しかし、一度でも怪物たちを倒せばそのスタイルは確信になる。
2019年1月末、コッパ・イタリア準々決勝で、アタランタはC・ロナウドらを擁した常勝軍団ユベントスを3-0で完膚なきまでに破った。ガスペリーニは、ユーベを率いていた同門のアッレグリを戦術で圧倒した。
ガレオーネ門下の出世頭は、言うまでもなくアッレグリだ。プロの監督として理想と現実の間に一線を引き、「サッカーの試合にスペクタクルを求める者はサーカスを観に行くべき」と言い放つ彼は、両手に余るタイトルと唸るほどの称賛を手にしてきた。
師匠ガレオーネも、自身が叶わなかったビッグクラブでの指揮やスクデットという夢を実現してくれた“次男”を自慢の愛弟子と公言して憚らない。