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頑固な名将がセリエA最優秀監督に。
ガスペリーニは師匠直系の攻撃主義。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/04/18 11:30
クロトーネ、ジェノア、そしてアタランタ。ガスペリーニが率いたクラブはどれも魅力にあふれている。
師の理想をまっすぐに受け継ぎ。
しかし、アタランタの胸すくサッカーを見れば、師が目指した理想をまっすぐに受け継ぎ、21世紀のスペクタクルを追求しているのは、不器用な“長兄”ガスペリーニの方ではないのか、と思わずにはいられないのだ。
今年1月11日、セリエA第19節で対戦した仇敵インテルをアタランタは文字通り圧倒した。スコアこそ1-1のドローだったが、ボールポゼッションやシュート数で別カテゴリーのチームかと見紛うほどの差を見せ付けた。
「できるならアタランタのようなサッカーがしたい。インテンシティとフィジカルを落とさず、かつクオリティを保ったまま95分間戦える彼らのように」
試合後、あのプライドの塊のような闘将アントニオ・コンテが屈辱でうなだれた。
都会のビッグクラブと対戦する地方クラブのチームは、どうしても引いて守りに入ってしまう。早い話がビビってしまう。
今のアタランタはその恐怖心を克服した。
否、ガスペリーニ自身が克服したのだ。
「ガスペリーニに学んだのは私だ」
最優秀監督賞を授与されたガスペリーニは、不慣れな式典の場に声を上ずらせながら、自らのスタッフやクラブ、本拠地ベルガモのファンに謝辞を述べた。そして、同業者たちにも労いの言葉を加えた。
「こんな賞をいただけるなんて本当に光栄なことです。サッカー監督とは何と因果で辛い商売かと思う。だが、その分だけ素晴らしいこともきっとある。私はこの賞をすべての同業者と分かち合いたい。本当に感謝します」
地方の名将としての評価は受けつつも、ガレオーネはついぞ表彰を手にすることなく監督稼業から足を洗った。つないで走って、またつないで最後に鮮やかに仕留める。白星ではなくゴールすることを目標にする。79歳の今もそんなチームが大好きだ。
自分とよく似て不器用な一番弟子にもようやく光が当たった。我がことのように心から喜べる。
「ガスペリーニのアタランタは見ていて本当に楽しい。彼のチームが本当にすごいのは攻撃じゃない、守備の指導においてやつほど長けた指導者は他におらんのだよ。ひとつ言わせてもらえるなら、彼は私から守備を学んだことはないんだ。どう守るべきか、選手だったガスペリーニに学んでいたのは監督の私の方だったんだよ」