“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
南野拓実、中島翔哉が聞いた大合唱。
震災後のU-17W杯で体験した「世界」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byMEXSPORT/AFLO
posted2020/04/15 11:50
南野(9番)らが挑んだ2011年U-17W杯。準々決勝でブラジルに惜敗するも、会場には「ハポン」コールが鳴り響いた。
中島、高木が流れを変える。
65分、喜田に代わって中島、75分には南野に代わって高木大輔(G大阪)が投入されると、これで流れが日本に傾く。ドリブラーの2人は劣悪なピッチを物ともせずに果敢に仕掛け、ブラジルの守備を乱していった。この動きに他の選手たちも呼応し、ムードは一変した。
77分、カウンターから縦パスで右サイドを抜け出した高木のマイナスの折り返しを、ニアで早川が飛び込む。これが囮となり、ファーサイドで完全フリーになった中島が落ち着いて決めて1点を返した。
「ハポン」コールはさらに大きくなる。
室屋が、植田が体を張った気迫のディフェンスでブラジルの勢いを封じると、迎えた88分。右CKからの混戦に反応した早川が押し込み、ついに1点差にまで詰め寄った。
この瞬間、スタジアムのボルテージは最高潮に達した。
日本のチャンスには地鳴りがするように大歓声が起こり、ブラジルの選手が接触プレーで倒れたり、時間稼ぎをすると、容赦ないブーイングが降り注ぐ。満員のスタンドは一体感に包まれ、あっという間に大合唱だ。立ち上がりっぱなしで大声を張り上げている者、日本の攻撃の度に足で床を鳴らして盛りあげる者、手拍子をする者……。スタジアムは完全に日本のホームと化していた。
惜敗も、特大の「ハポン」コール。
しかし、無情にも2-3のまま試合は終了。後半アディショナルタイム、右サイドを突破した石毛の折り返しに、飛び込んだ高木の足がわずかに届かないシーンを見た観客は一斉に頭を抱えたのが印象的だった。
鳴り響く、タイムアップのホイッスル。選手たちも大きなため息とともに膝から崩れ落ちた。
だが、次の瞬間、スタジアム全体から再び「ハポン」コールが湧き上がった。会場に詰めかけたすべての人たちがスタンディングオベーションで日本代表の健闘をたたえ、記者席に座る我々日本メディアにも拍手をしながら特大の「ハポン」コールを送ってくれる者もいた。