水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
井原正巳の献身とジョホールバル。
1998W杯予選、解説席からの記憶。
posted2020/04/17 11:30
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph by
Sports Graphic Number
今回、編集部から「ナンバーワン」というお題をいただいた時、真っ先に思い浮かんだのはジョホールバルの景色でした。
日本が初めてW杯出場を決めたフランス大会のアジア最終予選、第3代表の座を懸けたイラン戦。私はラジオ局の中継で解説を担当していました。
これまで何度も流れている岡野(雅行)の決勝ゴール。ほとんどの皆さんはTV中継の映像を思い出すのではないでしょうか。解説の清水(秀彦)さんの「やったー!」という歓喜の声とピッチへ走り出す岡田(武史)さんの姿――。誰もが熱狂した場面だと思います。
なぜ岡野はスライディングを(笑)。
ただ、ラジオブースにいた私は、あのゴールを少し冷静に見ていました。師岡(正雄)アナが絶叫する横で、なぜ岡野はスライディングをしたのか、と(笑)。「あの形が一番入ると思った、安全だと思った」と後に話していましたが、その直前に決定機を外していたので、一瞬冷やっとさせられました。
ともあれ、歴史的なゴールを決めたことには変わりありません。FWはゴールで人生を変えられる。実際に彼はあのゴールで一躍、時の人となりましたよね。今やガイナーレ鳥取のGMです。当時からすれば、想像もつきませんでした(笑)。
実は、あの試合のことは断片的にしか覚えていないんです。ゴールシーンこそ冷静に見ていましたが、試合を通して、やはり力が入っていたのかもしれません。鮮明に記憶に焼き付いているのは、日本のゴールシーンとアリ・ダエイ(イラン代表FW)に決められた逆転ゴール。あとは岡野が猛ダッシュでウォーミングアップをしていたことぐらいかな(笑)。
むしろこの予選については、ジョホールバルの試合がナンバーワンというより、全9試合がストーリーとなってつながっている感覚があります。すべて現地で取材していたので、チーム全体から見えた一喜一憂が印象に残っていますね。