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なぜコービー・ブライアントは特別か?
「最も身近なスーパースター」の死。
text by
長澤壮太郎Sotaro Nagasawa
photograph byGetty Images
posted2020/04/12 19:00
ロサンゼルスの街に画かれたコービー・ブライアントの壁画。その姿には聖人のごとく後光が――。
“新時代の”スーパースターになった第一章。
現役時代のコービーは“ブラックマンバ”の愛称で知られていました。この愛称はクエンティン・タランティーノの映画『キル・ビル』の暗殺者の呼び名から引用されており、彼のプレイスタイルも、ゲームを支配してどんな相手でも最後には息の根を止めて倒してしまうという、まさに「暗殺者の精神」がみなぎっているように見えたものです。
アメリカのスポーツメディアでは、一流スポーツ選手同士の優劣を比較する時に、よく、一番重圧がかかる土壇場での“キラーインスティンクト(殺しの嗅覚/本能)”がどれぐらいあるか? と言う議論を展開します。“神様”マイケル・ジョーダンと並んで、コービーもこのキラーインスティンクトが誰よりも秀でている選手として有名だったのです。
まるでアメコミに出てくるヒーローのような。
高校卒業後18歳でNBA入りしてから20シーズン、37歳で引退するまで、コート上での一切妥協のないストイックなまでの競争心を、彼は我々に披露してきました。
彼はファンにとって、どんな窮地に立たされてもチームを、そしてロスの街を救ってくれるスーパースター。まるで、アメリカのコミックに出てくるヒーローのような存在として地元で認識されていたのではないかと思います。
そして、アンチにとっては何度やっつけようとしても、毎度毎度しぶとく立ちはだかる不死身の強敵として……敵をも魅了し、誰もが彼のプレイや言動から目が離せない。そんな存在だったのだと思います。
だからこそ、今回の事故で彼が亡くなってしまったことが、信じられません。どんな窮地でも彼だけはどうにかしてくれる、長年、彼のプレイを観てきただけに、ヒーロー物の映画のように、倒れても敗北しても、最後にはまた救世主として登場すると、そんな錯覚さえ起こしてしまうような存在であったと思います。
コービーを思う時に、絶対折れない精神、不屈の魂、そんな言葉が僕の脳裏に浮かんできます。