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伊藤華英が語るピーキングの苛酷さ。
「五輪1年延期」の見えない側面。
posted2020/04/09 11:50
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph by
Getty Images
「こんなことが起きるとは」
オリンピック東京大会の「1年程度」の延期が発表された。もちろん、新型コロナウイルスのパンデミックへの配慮からだ。そして競泳のオリンピック選考会を兼ねた日本選手権も開幕1週間前に中止となった。
怒涛の年度末。3月の中旬から心が落ちつかなかった。競泳の引退した先輩、仲間からも「日本選手権どうなる?」という心配の声があがっていた。
それもそのはず。だって、4年に1度のこの時のために、選手たちはメンタル面、フィジカル面をいやというほど調整して「ピーク」をここに合わせて来たのだから。
一発勝負のピーキングはシビア。
それは、全てを懸けて走り抜けた経験を持つアスリートならわかることだ。しかも競泳の場合は、2004年以降とても厳しい選考基準を日本水泳連盟が設定した。「世界で戦える選手を輩出するため」という言葉は全く嘘ではなく、五輪に派遣される日本選手はほとんどがメダル候補だ。
そして、競泳のオリンピック選考は誰もがわかる一発勝負である。
4年に1度の日本選手権の決勝で、派遣標準記録を突破し、かつ上位2位までに入らなければならない。準決勝で派遣標準を切っても決勝で切れなければ資格はない。決勝で2位に入っても、派遣標準を切れなかったらもちろんオリンピックには行けない。
そんな一発勝負をオリンピックの3カ月前にやる意味は、「今」日本で最も速い選手を選ぶためだ。
ちなみにアメリカは、オリンピックの本当に直前、6月に選考会を行う予定だった。タイミングは国によって異なるが、競泳においてこの「ピーキング」が大切なことは変らない。本番から逆算して長期にわたって調整する方法は、マラソンとも似ている。